ライフネット生命の未来を30代に託そうと決めた「ダーウィン」の教えPhoto by Yoshihisa Wada

これからは「創業者」の名刺で若い人を支える

 連載2回目は本来ならば、自分なりに考えてきた「仕事のしかた」を述べようと思っていた。しかし僕がライフネット生命の会長職を6月の株主総会後に退任することが報道され、編集者から急きょ「退任について語ってほしい」と頼まれた。

 編集者の顔には、「事前打ち合わせのときになぜ教えてくれなかったのですか」と書いてあったが、自分の身の振り方とはいえ人事は取締役会決議がないと口にはできないものだ。僕は、家族にも事前には一言も言わなかった。ご了解いただきたいと思っている。

 と、楽屋話はここまでにして、退任を決めた理由とこの10年を振り返ってみたい。退任を決めた理由はおおむね3つだ。

 ライフネット生命プロジェクトは、昨年10月で、準備会社立ち上げから10周年を迎えた。この10年間は社業を軌道に乗せるべく陣頭指揮を執ってきたが、次の10年の課題はなによりも次の世代を育てることにあると考えた。30代の若い執行役員2人に取締役として経営戦略と営業本部のヘッドを担ってもらい、40代の社長岩瀬(大輔)を両翼から支えてもらう。僕は後陣から彼らを支える役割を担い、また、創業者としてライフネット生命を世に広めていくための広報活動に努めていく。

 2つ目は、当社のお客さまとの関わりだ。当社のお客さまの大半は30代を中心とする若い世代であり、ライフネット生命の次の10年のイメージもお客さまと同世代の若い経営陣を前面に押し出した方が望ましいと考えた。

 3つ目が、体力の問題だ。創業以来、「社員に寄り添おう」と心に誓い、ひそかに実践してきた。例えば、お客さま対応を行なうコンタクトセンターは、平日ならば夜の10時まで、週末も開いている。夕方に行事があってもコンタクトセンターが開いていれば必ず帰社して社員の顔を見ていたし、週末も東京にいれば必ず顔を出すようにしていた。しかし、昨秋あたりから直帰することが増えてきた。これは僕の体が後陣に回ることを促しているのだと思った。

 この4月に、僕は古稀を迎える。古稀の人間が、今後10年間、会社を引っ張っていくのは素直に考えると少し無理があるだろう。

 今回登用する30代の取締役2人の年齢を足すと、ほぼ僕の年齢ぐらいになる。60代や50代に託するのなら面白くもなんともないが、お客さまと同世代の30代の2人に託するのなら次の10年も安泰だろう。そもそも次の世代を育てるのは、動物である人間にとって一番大切な役割だと僕は考えている。

 ライフネット生命を起業する時から、いつかは次の世代にバトンタッチをと考えていたが、具体的に退任を決断したのは今年のお正月休みだった。昨年の暮れに大学の同期生が何人か集まり忘年会が開かれた。そうしたら「俺たちもいよいよ古稀だぜ」「そうだな」などという会話になった。

 僕の同期生は40人ちょっといたが、同期生のほとんどは、役所や電気、ガス会社などに就職し、とうの昔に退職している。現役として第一線で働いているのは弁護士の友人と僕の2人ぐらいだ。

 僕は自分の年齢を気にするタイプでは全くないし、年齢など気にせずに働ける間は働けばいいと考えている。ただ、働き方や果たすべき役割はこのままでいいのかどうか、お正月休みによく考えて決めた。

「だいたい出口は、60歳で開業したのだから、それ自体が普通じゃない」と友人にはよく言われているが、気がついてみたらあっという間の10年だった。