チームの業績低下や機能不全の一因に、「無礼な振る舞い」の影響がある。職場での無礼を専門に研究する筆者が、礼節ある環境をつくる要諦を示す。


 礼を失した振る舞いは、チームに亀裂を生み、協力関係を破壊し、メンバーの心理的安全を損ね、チームの有効性を妨げるおそれがある。軽蔑的で品位を傷つける発言や、侮辱、中傷その他の無礼な行為は、自信と信頼を失わせ、助け合いの精神をむしばむ可能性がある。こうした影響は、「無礼な行為の直接的なターゲットでない人たち」に対してさえも及ぶのだ。

 最近のある研究では、非礼な振る舞いが医療現場で協力関係とパフォーマンスを低下させると報告している(英語論文)。

 実験では、イスラエルにある4つの新生児集中治療室で働く24の医療チームが、治療の質を向上させるための研修会に招かれて、参加した。チームは研修の一環として、腸の重篤な疾患によって状態が急に悪化した未熟児に処置を施す必要があった(単なるシミュレーションであり、新生児の健康に危険はない)。スタッフは、状態を特定・診断して、心肺蘇生法などの適切な治療を施さなければならない。

 チームには、米国から来ている専門家が遠隔で(ビデオを通じて)見守っており、時折コメントやアドバイスをする、と説明した。実はその「専門家」とは、この実験をしている研究者らの1人だ。

 半数のチームは専門家から、シミュレーションによる研修と実習の重要性に関する偏りのないメッセージを受け取った。その際、チームの医療行為の質については言及されない。残る半数のチームは、(自分たちではなく過去の)イスラエルの研修参加者らのパフォーマンス、およびイスラエルの医療の質が、いかに「お粗末」かについて、侮辱的なメッセージを受けた(例:他国に比べ感心できない、イスラエルに滞在中は病気にかかりたくないものだ、等)。

 研究者らは医療シミュレーションを録画し、客観的な立場の人に評価してもらった。すると、事前に無礼なメッセージを受け取ったチームはそうでないチームに比べ、診断および処置のすべてのパフォーマンス指標において低い能力を示し、新生児の生存の可能性を著しく低下させていた。

 その理由は主として、無礼な対応に直面したチームは、情報の共有を進んで行わず、メンバー間で助けを求めるのをやめてしまったからである。

 この状況は、私の研究でも頻繁に見られる。心理的安全――チームの環境が信頼と敬意に満ち、安心してリスクを取れる場所であるという感覚――に欠ける人は、往々にして無意識のうちに心を閉ざしてしまう。そしてそうなると、フィードバックを求めたり受け容れたりすることが少なくなる。

 実験してみること、ミスについて話し合うこと、潜在的または実際の問題について口を開くことなども、ためらいがちになることがわかる。威嚇的な人がその場にいなくても、ネガティブなムードの中で働き、ベストを尽くすことができないのだ。

 ひとたび非礼が生じると、ネガティブな思考が人々の頭の中に容易に浸透して留まり、ネガティブな行為を引き起こす。私が行った実験では、人は無礼な振る舞いに接すると、他人を助ける傾向が3倍低くなり、共有しようという意欲が半分以上減ることがわかった。これは理にかなっている。誰かが無礼や不快な振る舞いをすると、悪感情が広がってその振る舞いが増幅し、攻撃性や機能不全につながることがあるからだ。

 たとえば、誰かを軽はずみにけなしたり、能力を人前で問題視したりといった、比較的小さなことであっても、その人の心に爪痕を残し、そのパフォーマンスや心身の健康を次第に悪化させる。イェール大学の心理学者、アダム・ベアとデイビッド・ランドが開発した数学的モデルが示すように、日頃、嫌な人たちに囲まれている人は、身勝手さを本能的に身につけ、行動に慎重さを欠くようになる(英語論文)。このような人たちは、立ち止まって考えようとしないので、協力すれば報われる場合でさえ身勝手に行動してしまう(英語記事)。

 ちょっとした礼節をわきまえることは、大きな効果がある。人々の心理的安全を高め、チームのパフォーマンスを向上させるのだ。私が実施したある実験では、人は提案を丁重な態度で示された場合のほうが、不作法な(話をぶしつけに遮られてばかりいる)場合よりも、心理的安全を感じる割合が35%高かった。

 他の研究でも、心理的安全がチームの全般的なパフォーマンスを向上させることが示されている。グーグルは、チームの有効性について、社内で活動中の180以上のチームを対象に調査した。その結果、より重要なのは「チームが誰で構成されているか」よりも、「チームのメンバーがどのようにコミュニケーションを取り、仕事を組み立て、貢献を評価しているか」であったという(英語サイト)。

 そして、心理的安全が高いチームにいる人のほうが、仲間のアイデアを活用する傾向が高く、退職率も低かった。また彼らは、グーグルにより大きな収益をもたらし、幹部から「有能」との評価を受ける傾向が2倍高かった。