東日本大震災の被災者向けの仮設住宅について、大畠国土交通大臣は5月17日に“8月前半には必要個数を完成させられる”との見通しを明らかにしました。これだけからは仮設住宅の建設が順調に進んでいるように見えますが、実際はだいぶ違うと言わざるを得ません。政府の判断が仮設住宅の建設の妨げとなっている事態が起きているのです。

福島県南相馬市で起きている問題

 それは、地震・津波もさることながら原発事故の被災地でもある福島県南相馬市で起きています。

 南相馬市は原発事故との関係では、福島第一原発から20キロ圏、20~30キロ圏、30キロ圏外の3つの地域に分けられます。20キロ圏は警戒区域で立ち入り禁止となっていますので、全住民が避難をしています。30キロ圏外については、原発事故との関連で何も規制されていません。

 問題は20~30キロ圏になります。政府は、20~30キロ圏については計画的避難区域と緊急時避難対象区域の二種類のエリアを設定していますが、南相馬市の20~30キロ圏はほぼ全域が緊急時避難対象区域に該当します。原発の状況が一段落したこともあり、津波で破壊された海岸沿いの地域を除けば、避難していた住民も戻り、また地元の商店なども営業を再開しています。このエリアの学校はすべて閉鎖されているなど多くの支障はあるものの、徐々に普通の市民生活が戻りつつあるのです。

 ちなみに、南相馬市の人口は約7万人ですが、津波と原発事故の被害により3万人が未だに県外・県内の様々な地域に避難しています。そして、それら被災者の方々に仮設住宅への入居希望を募ったところ、約3000件ありました。

 当然、仮設住宅の建設(及び民間住宅の借り上げ)を急がなければならないのですが、ここで問題が生じました。官邸が20~30キロ圏には仮設住宅を建設してはいけないと言うため、30キロ圏外の地域にしか建設できない状態になっているのです。

 しかし、南相馬市内で30キロ圏外の地域では、海岸沿いは津波で破壊され、仮設住宅の建設には適しませんし、内陸部の多くを占める山地も無理です。つまり、山地と津波で破壊されたエリアの中間の限られた平地にしか建設できないのです。その結果、南相馬市では現在のところ、1600戸しか仮設住宅を建設できない状態になっています。