5月上旬、焼肉チェーン店で提供されたユッケから、腸管出血性大腸菌O111に感染し4人が命を落とした事件は、まだ記憶に新しい。身近な食材がもたらした惨事は、人々の食卓への意識を大きく変えた。しかしその一方で、報道から日が経つにつれリスク意識も薄れつつある。これからますます気温や湿度が上がり、入念な衛生管理が求められる季節を迎えることを忘れてはならない。これまでに起きた食中毒事件を紐解きながら、忘れた頃に食中毒に襲われないための予防法を探ってみよう。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)

生肉からのO111感染で犠牲者は4人に
食中毒が絶えないお国柄だが、リスク意識は?

 多くの焼肉店からユッケが姿を消している。牛肉を生のまま使用し、タレや卵黄などで和えて食するこの料理は、韓国料理ブーム以前から日本に馴染んでいた人気メニューだ。そのユッケの提供自粛が相次いでいるのが、5月上旬からメディアを賑わしている「ユッケ食中毒事件」の影響であることは、言わずもがなだ。

 株式会社フーズ・フォーラスが運営する『焼肉酒家えびす』の店舗で、ユッケを食べた多くのお客が腸管出血性大腸菌O111に感染し、そのうち4人が死亡した。この事件を受けて、食用肉の管理方法に疑義が呈されているのは、周知の通りである。

 こうした細菌性の食中毒は、大まかに毒素型食中毒と感染型食中毒の2種類に分類される。毒素型食中毒は、飲食物を介して体内に混入した細菌が直接毒素として作用するタイプ。一方の感染型食中毒は、食物に付着したわずかな細菌が体内で繁殖することから、消化管の感染症を発症するタイプだ。今回のO111は後者である。

 これから梅雨を迎え、ますますこうした食中毒のリスクは増していく。そもそも、温暖湿潤気候から亜熱帯に近付きつつある日本列島は、こうした食への対策が欠かせない国柄だ。

 にもかかわらず、報道から日が経つにつれ、世間のリスク意識は早くも薄れ始めているようだ。