発送電分離によって太陽光発電や風力発電などの参入が増えると期待しているのなら、それは間違いだ。欧州では風力発電の普及が進んでいるが、それは国土の問題が大きい。欧州は緯度が高いことから、強い偏西風が安定的に吹くため、風力発電に適している。また、風力発電の建設コストの安い平地が多い。さらに、広く浅い海が近辺にあるため、洋上風力発電も低コストで可能である。

 これに対して、日本では、風は弱く不安定であり、しかも台風や落雷のリスクが欧州よりもはるかに高い。国土は山がちで平野が少なく、人口密度が高い。浅い海底の海も少ない。このため、陸上であれ洋上であれ、経済的な風力発電に適した立地場所は非常に少ない。

 太陽光発電についても、その発電効率の低さやコストの高さに加えて、国土の厳しい制約がある。平野が少なく地価の高い日本には、大規模太陽光発電所の適地が極めて少ないのである。他方、住宅の屋根やビルの屋上に太陽光パネルを普及させていくやり方は、経済性の観点からみて大きな期待はできず、抜本的な技術革新を待つしかない。

 つまり、日本で太陽光発電や風力発電が進まない主たる理由は、これらの発電の技術的・経済的な問題と国土の厳しい制約であって、発送電が分離していないことではない。しかも、日本よりも国土の制約がゆるい欧州ですら、日本で一般に言われているほど、自然エネルギーの導入が進んでいるわけではない。

 例えばドイツが自然エネルギーの先進国として例に出されるが、ドイツの発電電力量の電源構成は、石炭火力発電が約5割を占め、原子力発電は日本と同様に2割以上を占める。そして、風力発電は約6%、バイオマス発電は約3%、太陽光発電に至っては約1%に過ぎない。従って、自然エネルギーの普及の最大の制約は、制度の問題というよりもむしろ、技術的・経済的な問題なのである。

 さらに、太陽光や風力による発電は天候の影響を大きく受けるため、電力の品質が不安定になるという問題もある。日本の送電インフラは欧米と違って脆弱なため、太陽光発電や風力発電からの電力の受け入れには厳しい条件を課さなければ、電力の安定供給が確保できない。その厳しい制約がこれらの新エネルギー発電の普及を阻害するのは事実だが、発送電を分離することで解消される問題ではない。それどころか、不安定な太陽光発電や風力発電をより多く受け入れるためには、送電インフラを管理する主体がより高い需給調整能力をもっている必要があり、そのためには発電設備と送電設備を一体で管理する方がむしろ望ましいはずである。