Martin Petty

[スカボロー礁(南シナ海) 10日 ロイター] - 濃紺の深海と淡青の浅瀬が接する南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)付近の水域に、いかりを下ろした漁船が何マイルにもわたって列をなしている。

背後には、中国海警局の小艦隊がにらみをきかせ、アジアで最も激しい領有権争いが起きているこの海域での中国の勢威を誇示している。

国際司法の場で、中国がこの環礁を実効支配していることが違法と裁定されてから9カ月が経過したが、同国は今もこの豊かな漁場における主権を主張し、船団を増強している。

南シナ海の大半において主権を有するという中国の主張を無効とした常設仲裁裁判所の裁定の受け入れを、中国政府は拒否している。

ただし、中国船舶のあいだにフィリピン籍の船舶も点在していることから、この裁定をある程度遵守しているようにも見える。フィリピンのドゥテルテ大統領が、数十億ドル規模の融資や、投資、貿易交渉を中国と進めていることもプラスに働いている可能性がある。

中国は10月、フィリピン船舶に対する排除行動を中止し、フィリピンから200キロ離れた海面に露出した岩礁の周縁部における漁船の操業を認めている。制限をさらに緩和しようとする動きも見られる。

ロイターの記者は先週、スカボロー礁に足を踏み入れた。外国メディアがこの地を訪れるのは、中国が実効支配を開始した2012年以降初めてのことだ。多数の小型漁船が日夜、この岩礁に出入りし、豊かな水産資源を獲得している様子をロイターの記者は目撃した。

潜水マスクを着け、銛を手にしたビンセント・パラワンさんは、岩礁内の水域で立ち泳ぎしながら、「中に入れてもらえるようになってありがたい。これで家族を養える」と語った。

「中国人にここにいて欲しいとは思わない。何しろ彼らは数が多いから、私たちの漁業に影響が出る。しかし共存しようという気持ちはある。追い出されるのは嫌だ。少なくとも今は、魚を捕ることができる」

サンゴ礁からなるこの環礁は、南シナ海における勢力争いの象徴的な存在であり、戦略上の「火薬庫」となっている。中国とフィリピンの他、台湾とベトナムもスカボロー礁に対する主権を主張している。

譲歩する姿勢を見せているとはいえ、この水域での中国のプレゼンスは増大している。海警局の艦艇と漁船で構成される船団の規模は、昨年末の衛星画像によって確認された数からさらに拡大している。

こうした動きにフィリピン政府は懸念を募らせている。フィリピンの排他的経済水域内にあるスプラトリー(南沙)諸島に人工島を築き、要塞化した中国が、スカボロー礁においても同じような野心を持っているのではないかと疑念を抱いているのだ。

<平和的共存>

スカボロー礁は水面にようやく頂点を出している岩からなる、1辺46キロの三角状の環礁で、フィリピン・中国両国の船舶は、そこから100メートルも離れていない場所に並んで投錨しており、両者のあいだには平和的な共存が見られる。

麦わら帽子をかぶった中国人が漁船のあいだを行き交い、フィリピン人と身振り手振りを交わしつつ、煙草や酒と魚を交換している。

小型漁船はブーンとエンジン音を響かせ、サンゴ礁が作る天然の消波堤を抜け、環礁内の水域を出入りする。何世紀も前から漁師たちに豊富な漁獲と嵐からの避難所を提供してきた場所である。

老朽化した手狭な漁船に乗ったフィリピン人漁師たちは、数のうえでは約10倍と優位にある、増強された中国船団との競争に不満を漏らす。

「以前は数日間、漁を行っていたが、今は数週間だ。少なくとも、ある程度は魚を獲れる」と語るのは、20年にわたり漁業を営んでいる漁船の船長ラミル・ロザルさん。

「中国人はもっとたくさん獲っている。フィリピン漁船は彼らと魚を分け合わなければならない。だが、彼らが特に迷惑ということはない。親切な人たちもいる」

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、すべての国に開かれた伝統的な漁場だと判断したスカボロー礁付近の水域だが、ここでは中国海警局の艦艇数隻が自国ルールを強制している。同裁判所は、環礁の領有権については判断を下していない。

フィリピンのマナロ外相は、フィリピン漁船にとってのアクセスが改善されたことは「もちろん常設仲裁裁判所の裁定に沿ったもの」だと話している。

<厳重な監視体制>

ロイターが漁師たちに取材したところ、中国海警局の艦艇は、大型漁船が環礁内に入ることは禁じているものの、2人乗りの小型漁船であれば環礁内で自由に漁ができるという。

「中国漁船にもフィリピン漁船にも同じルールが適用されている」とロザル船長は言う。

見慣れぬ船舶がこの水域に近づくと、監視のため強力なエンジンを備えたボートが大型の艦艇から発進することがある。

昨年のフィリピン政府からの発表によれば、海警局の艦艇のうち3隻は水の底の土砂を取り去る能力を有する艦種だったという。そのうち1隻は環礁内に常駐していたが、その行動内容は明らかではない。

ロイター取材陣が中国漁船に横付けしてみると、海警局が中国の漁師たちと連携していることが分かった。

漁船員の1人は急いで携帯無線を手に取り、記者たちの写真を撮影した。まもなく海警局の艦艇が針路を変え、こちらに向かって急速に接近してきたが、短時間追尾しただけで引き返していった。

ロイターは中国外務省にスカボロー礁に関する質問を送ったが、ただちに回答は得られなかった。同省の最近のコメントは曖昧で、スカボロー礁の状況に変化がないことを述べているだけだ。

フィリピンの漁師たちは、ベトナム漁船もスカボロー礁で漁を行っており、それはベトナム政府が中国政府による新たな措置を試している兆候だと語った。

とはいえ、ロイター取材陣はベトナム漁船を1隻も目撃しなかった。またベトナムの2つの漁業団体は、自国漁船がスカボロー礁に向かったことを把握していないと述べた。ベトナム政府からの回答は得られなかった。

スカボロー礁をめぐる状況は改善されているとはいえ、緊張は残っている。

先月、中国がスカボロー礁に環境測定所を建設することを計画しているとの報道があり、フィリピン側を驚かせた。ドゥテルテ大統領は、中国の行動を止めることはできないが、「両国の友好を尊重するならば」建設はないと確信していると述べた。

そして、ドゥテルテ大統領はつい先週、南シナ海でフィリピンが占有する9つの環礁・島嶼(とうしょ)上の施設の更新を命じて、中国、ベトナム両国を警戒させている。

今のところ、フィリピン漁船は中国との緊張緩和を最大限に利用しており、環礁に数カ月も留まっている者さえいる。

日に焼けた肌に傷みの目立つ作業着をまとった男たちは、過積載状態の漁船の舷側を慌ただしく行き交いながら、魚を入れたカゴを、フィリピンに帰港する船へと積み替えている。

37歳のレナート・エタック船長は、ひっきりなしに煙草を吸いながら、魚の重量を測り、各々の納品分について詳細に記録している。エタック船長によれば、漁獲高は減少傾向にあるとはいえ、スカボロー礁での操業はフィリピン人漁師にとって「お祭り」だという。

エタック船長は、中国海警局についても肯定的に見ている。

「もし彼らがここにいなければ、スカボロー礁は皆に解放される。違法操業の漁船も含めてだ」と彼は言う。「彼らがここにいることが、ある意味、抑止力になっている」

(翻訳:エァクレーレン)