また、「顧客・取引先へ自社の状況を伝える危機管理広報など、迅速な情報発信を通じてサプライチェーンの事業継続に役立てることもできます」と意義を述べる。たとえば、BCPマニュアルなどの文書を電子化し、クラウド上のグループウエアやファイルサーバに保管しておく。これにより、出社できないような状況でも、電子マニュアルを参照して業務を継続できる。

既存ITを組み合わせた
ハイブリッド型クラウド

 BCPやIT-BCM(ITの事業継続管理)を考えるうえで、欠かせないのがデータバックアップの仕組みだ。そのポイントは、複数のバックアップサイトにデータを分散して保管することである。オンプレミスでバックアップシステムを構築・運用する方法もあるが、複数のサイトを設けるとなると、コストや保守管理の負荷が大きくなる問題がある。

 そこで、クラウドサービスを活用してデータをバックアップする。データの増大に応じてストレージの容量を増やすなど、柔軟に対応できる利点もある。ただし、自然災害からデータを保護するため、データセンターの選択では注意が必要だ。

 東日本大震災では、東北から関東まで広域で地震・津波・火災などの各種被害が発生した。日本列島には震源となるプレートが複数あることが知られている。データバックアップのリスクを減らす意味でも、「データセンターやバックアップサイトの構築は、単に物理的に2拠点以上に分散させるだけでなく、異なる複数のプレートに分散させて拠点を構築しておくといいでしょう」と、戸村理事長は助言する。

 クラウドを活用するといっても、既存のシステム環境などによって企業ごとに事情は異なる。どのシステムをクラウドへ移行すれば効果的なのか、迷う企業もあるだろう。

 そこで、戸村理事長はクラウドとオンプレミスを組み合わせた「ハイブリッド型クラウド」を商標登録して提案してきた。企業が保有するITリソースのリスク評価と対応を行う「クラウド化リスクマッピング記述書」を参考に、クラウドの導入を検討する方法もあるという(図)。メールなど情報系システムを手始めにクラウドへ移行し、その使い勝手や効果を確かめてみてはどうだろうか。

図 クラウド化へのIT資産棚卸しマップ例 クラウド化への手順として、まず自社のIT資産の棚卸しと選定を行い、クラウドへ移行する優先順位を決める。そして、リスク評価と対応を行い、どのようにクラウドを活用していくか整理する。たとえば情報系システムはクラウド化する一方、基幹業務系システムや業界特有の業務システムはクラウドへ移行せずに、オンプレミスのままクラウドと併用するという経営判断もできる。