[東京 13日 ロイター] - 伊藤元重・東京大学名誉教授(学習院大教授)は、18日に第1回会合を開く日米経済対話で、貿易不均衡問題がテーマの1つになるとしても、対ロシア関係や北朝鮮問題を抱える米国は、日米関係の強化を優先、日本に厳しく対することはないとの見方を示した。

日米2国間貿易協定を巡っては、サービスや知的財産権の輸出で日本にメリットが大きく、拒否する理由はないとした。

貿易不均衡是正への対処方法に関しては、1980年代と異なり対米輸出の削減余地が小さいため、シェールガスの輸入増が効果的だと指摘。日本企業のシェア確保のうえで対米投資拡大もメリットになるとの見方を示した。

仮に朝鮮半島で有事が起きた場合、ドル高が進行したとしても、米国が相手国の通貨政策に介入してくるような状況にはないと指摘した。

伊藤教授は、政府の経済財政諮問会議の民間議員も務めている。

13日に行ったインタビューの詳細は以下の通り。

──日米対話で、米国から貿易不均衡是正の圧力がかかるケースは考えられるか。

「米国にとって現状は、貿易や為替問題よりも、対ロ関係や北朝鮮問題が深刻化する中で、日米関係(の強化)の方を優先する状況だ。貿易問題が議題になるとしても、話し合いは実務者レベルではなく閣僚間だということを踏まえると、今議論して来月からこうしようということにはならない。定期的に時間をかけて進めていくものだ」

「麻生(太郎副総理)・ペンス(米副大統領)会談でどのような議題が並ぶかは、(日本側の意向でなく)米国次第ということだろう。2国間貿易協定の提案があれば、積極的に取り組むべきだ」

「モノだけでなくサービスや知的財産権など、TPP(環太平洋連携協定)でそうだったように、日本側にはメリットが大きい。EU(欧州連合)ともEPA(経済連携協定)を結ぼうとしている状況の下で、日米での協定をこちらが拒否する理由はない」

──日本は貿易問題にどう対処すべきか。

「貿易不均衡は、レーガン政権時代も同様だった。貿易収支の問題を議論するのはあまり生産的だとは思わないが、粛々と対応するしかない。しかし、対米輸出が急速に伸びていた80年代とは時代と状況が異なる。(現地生産も拡大し)今は日本からの輸出を減らせるものはない」

「不均衡緩和に効果的なのは、何といってもシェールガスの輸入拡大だ。また、インフラ投資など日米双方にメリットのある分野での協力も有効だ。ただ、トランプ政権にとってインフラ投資の優先順位は水道や道路などだ。日本が得意な鉄道は先の話となるだろう。その意味でも、双方にとって今すぐ鉄道インフラ整備の議論を進めるインセンティブはないはず」

「トヨタの例のように、企業の対米投資と絡めたやり方もある。日本の企業にとって米国マーケットは大事であり、シェア確保のためにも当然検討するだろう。ただ、投資のタイミングなど、アメリカがどの程度歓迎するのか、どこまで付いてくるかは微妙なので、慎重に判断することになるだろう」

──国内投資に勢いがない中で、企業が米国で大型投資を実施することに政府や与党内に空洞化への懸念は出ないか。

「安倍政権としては、日本国内で企業による工場の大型投資にあまり期待していない。むしろAIなど、IT投資に力を入れてほしいというスタンスだ。米国での生産拠点拡大などで、国内空洞化が進むといったことにさほど批判的ではないだろう」

──トランプ大統領は、ドル高が好ましくないと発言しているが、為替の議論で日本に圧力はあるとみているか。

「シリア問題では円高に動いているが、北朝鮮の問題は円安に振れるのか円高に振れるのか、誰にもわからないだろう。東日本大震災の時でも円安に動くとみられていたが、そうではなかった」

「有事で為替がどう動くのかわからないが、米国にとってそれを問題視するような状況ではない。為替の議論は続くだろうが、ドル高/円安で何とかしようという状況ではない。北朝鮮の情勢緊迫化が背景にある。今、急いでドル高是正に向けて相手国の政策に介入してくるなど、何かアクションをとるような状況にはない」

(中川泉 スタンレー・ホワイト 編集:田巻一彦)