姉に遺留分を現金で払い
遺産相続が無事完了

 姉はようやく自宅に居座り続けるのは不可能だと観念したのか「もう少し待ってほしい。こっちも準備があるから」と言い、ようやく立ち退きの意思を示したのです。そして姉と子どもたちの部屋にある家財等をすべて持ち出すこと、そして退去にかかる費用は姉が負担することで話がつきました。健さんは姉の気が変わらないうちに遺留分の196万円を姉の口座に振り込んだ上で、姉に遺産分割協議書へ署名させました。協議書等の書類を法務局に持参し、所有権移転登記の手続を済ませることで、ようやく実家の権利をお父さん10割から、健さん5割、お母さん5割に書き換えることができたのです。

 姉と子どもたちの退去、遺産分割協議書への署名、そして自宅の名義変更…お父さんが亡くなってから12ヵ月もの時間を要しました。もともと両親は前々から健さんに対して何度も「(姉に)出て行ってほしい」と口にしていたにもかかわらず、なぜ健さんはお父さんが亡くなるまで動かなかったのでしょうか?

「家族の話し合いで両親のことは『姉に任せる』と決めたからです。僕が横からしゃしゃり出ることで姉と両親の仲をぎくしゃくさせたくなかったんです」

 健さんは後悔の念を口にしますが、第一に本人同士が話をすべきだと考えていたようです。しかし、お父さんは生前、姉との間でほとんど会話はなく、虐待を「やめてほしい」と直接、姉に伝える機会もなく、ただただ我慢し続けるしかありませんでした。過去の虐待がお父さんのトラウマになっており、「また暴力を振るわれるのではないか」という恐怖心に苛まれていたため、何も言えなかったであろうことは想像に難くありません。

 結局のところ、姉は暴力を振るうことでお父さんの「口封じ」をしたようなものですが、暴力で相手を屈服させるようなやり方は絶対に許されません。それなのに健さんは姉が自らの過ちを悟ることを期待して様子を見続けてきたのですが、残念ながら時間の無駄でした。なぜなら、姉等の両親に対する暴力、嫌がらせ、いじめ等の行為は悪化するばかりで、最後まで改心の兆しは見られなかったのですから。

「悔やんでも悔やみきれません」

 健さんはそう懺悔しますが、実の父を傷つけても何とも思っていないような卑劣な輩を放置してしまったことに変わりはありません。お父さんがどんな気持ちで先立ったのか…そんなふうに思いをはせると健さんは躊躇せず、もっと早い段階で行動を起こすべきだったのではないでしょうか。

(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)