ポニーテールは圧倒的な人気。
これは僕も計算外でした。

――では、『もしドラ』の絵の作家さんは、どうやって見つけた?

加藤 ちょうどいい雰囲気のイラストレーターさんを探すのにはけっこう苦労しました。まず書店のライトノベル売り場に行っていろんなイラストを見ました。岩崎さんともいっしょに行って、二人の感覚を揃えるということもしています。

 この本は10万、20万部を売ろうと思っていたんで、「萌え過ぎ」もいけないんですよね。普通の人が受け入れてくれる萌えじゃないといけない。でももちろん、その道のみなさんも納得するかわいさでなくてはいけない。そんな感じで、しばらくイラストレーターさんを探し続けていました。

 そんなとき、人づてで紹介してもらったのが、いまの絵を描いてくださった「ゆきうさぎ」さんです。

 最初に見せてもらった「ゆきうさぎ」さんのイラストは、どちらかというともっときわどかったりかなり萌えの度合いの強い絵ばかりだったのですが、こういうイラストを描ける人だったら、僕らのイメージしているイラストを描けるのではないかと思いました。

――ゆきうさぎさんには、どういうリクエストをしたの?

加藤 「普通のひとが受け入れられるギリギリの萌え」をお願いしますと言いました。それからけっこう細かいことをいろいろ言っています。その上で、胸はあまり大きすぎずに高校生だからBカップでとか(笑)、スカートは短すぎずとか。髪型とか制服は、まだ迷っていたので、いろいろ描いていただきました。

 それをプリントアウトして、かなりいろんな人に見てもらいました。もうほんとに老若男女に見てもらいましたね。

『もしドラ』(その2)<br />萌えは、もはやサブカルチャーじゃない。<br />「現代の浮世絵」だと思います。社内で回覧された、みなみちゃん「候補生」のイラスト。

――加藤君はどれがよかった?

加藤 僕は個人的にはショートカットの子がいいなと思ったんですが、ただそれは個人的なものですから、一般的な意見を知りたかった。もう一つは、そもそもドラッカーの本に女の子を使うのはかなり冒険だと思っていたので、見て普通のひとに「引かれないかどうか」を確認したかったというのもあります。

 見てもらってわかったことは、ポニーテールが圧倒的に人気があることでした。特に男性の人気はすごかった。たしか8割以上の人が、このポニーテールの案を推してましたね。それと萌え絵への拒否反応は思ったよりもひどくない。

――でも加藤君って、アンケートで決めるようなタイプじゃないでしょう。

加藤 アンケートは傾向をつかむのには便利ですが、まったく新しいものをつくるときには向いてないこともあるなと思っています。でもこの場合は、方向性は基本的に決まってましたし、なにしろこのポニーテール人気は圧倒的でしたから、迷いはなかったですね。ほんとにみんなに見てもらってよかったですよ。で、髪型はポニーテールに決まり、制服はやっぱりセーラー服だよねということで、こうなりました。

 ほかにも体のひねりの向きやバッグの種類や向きなども細かく調整しています。このときのみなみちゃんの絵は、いまよりももう少し強めのわかりやすい笑顔だったのですが、最終段階で著者の岩崎さんが「もう少し笑顔を控えめにほしい」という意見をくださって、少しおさえた笑顔にして完成となりました。この修正も憂いみたいなものが出てよかったと思いますね。