背景は7月の空と雲が
8月よりもふさわしい

――装丁のイラストはみなみちゃんだけではく、背景も相当なものだが。

加藤 この本は圧倒的なクオリティにしたかったんですよ。ドラッカーと高校野球と、萌えの組み合わせてって、ビジネス書の常識から言うと相当無茶やっていますよね。ドラッカーというダイヤモンド社の貴重な資産を使っているので失敗するわけにはいかないし。こういう無茶なことをやるには圧倒的なハイクオリティでないと、チープさとか、パチもの感が出て、いかがわしくなってしまいます。だから「ここまでやるのか」というくらいやろうと思っていました。

――「遊ぶなら、真剣に遊べ」みたいな?

加藤 そうですね。だから背景の書き手を探すのにも苦労しました。

 背景画を書いたスタジオバンブーさんは、アニメーションの背景を描く専門のスタジオで、『攻殻機動隊』『東のエデン』といった有名作を手がけています。世界トップレベルのスタジオといっていいでしょう。

 本の装丁画を描いていただくことはできるのかはぜんぜんわからない状態でしたが、だめもとで電話をしてみると社長の竹田悠介さんとお話できました。竹田さんは最初、他の仕事がつまっていて難しいとのお答えだったのですが、「では、どれだけ待てばお願いできますか?」と聞きました。「1カ月後なら」ということだったので「出版を1カ月遅らせますので、来月ならお願いできますか」と言いました。竹田さんは「えっ」という感じでしたが、最後はこちらの思いが伝わったのか、引き受けていただくことができました。

――背景はなぜ川原を選んだの?

加藤 川原って青春の原風景として強力な設定ですよね。これは僕も岩崎さんも一緒の考えでした。で、このカバーの最終的なゴールは、見た人に「クゥーー」ってなってもらうことなんです。

――「クゥーー」?

加藤 つまり、青春ってもう帰ってこないじゃないですか。それに対する憧れとか後悔とか哀愁とか郷愁とかそういうものぜんぶを入れ込みたい。「こんな子と川辺で過ごしたな」とか「こんな子とあの頃、付き合っていたらな」とか、そういう感情が織り交ざった切なさを喚起してもらいたかったんです。

 この背景は岩崎さんの地元の秋川や多摩川の風景をミックスして作ってもらっています。スタジオバンブーさんには、秋川や多摩川の写真を沢山もっていき、細かな打ち合わせをしました。竹田さんに「空は何月の空ですかね?」と聞かれました。僕は「7月でお願いします!」と言ったんですが、これって伝わりますかね。8月だと空の青さは深くなりますよね。雲も入道雲のようにモクモクした感じになる。7月だともう少し青が浅くて、雲もやさしい感じになります。7月の空のほうが、青春のはかなさや美しさを表現するにはふさわしいのでないかと思いました。

――相当こだわっているね。あとカバーを外したときの表紙も面白いよね。

加藤 カバー下の表紙は、カバーの萌え絵が恥ずかしい人のことや、研修などで使われるようになったときのことを配慮してつくっています。こんなふうに、カバーを取ると大人しいデザインにしてあるんです。じつはこのデザインはドラッカーの『マネジメント』をモチーフにしているんですけど、発売当初、ネットでこういうのに気がついてくれた人がいて、嬉しかったですね。 
ちなみに『マネジメント』はこの青色がやや大人っぽい色ですが、『もしドラ』はそれよりもポップで明るい水色なんです。そしてこの水色の四隅のところを見てください。『マネジメント』は直角でピシっとしてますが、『もしドラ』は角丸になっているんです。

『もしドラ』(その2)<br />萌えは、もはやサブカルチャーじゃない。<br />「現代の浮世絵」だと思います。本家『マネジメント』とカバーを外した『もしドラ』。細かいところにまでなされた気配りに脱帽。しかもよく見ると……<拡大画像表示

――うわ、そこまでは気がつかなかった!

加藤 単にモチーフにするだけでなく、本の性格も反映させているんです。

*てっきり加藤君はアニメ好きだと思っていました、失礼。チャレンジするなら、恐る恐るではなく、緻密に計算しながら圧倒的な領域を目指す。こんな姿勢が伝わってきます。メイキングの3回目はいよいよ出版後のマーケティングです。