本連載は上場企業の決算データをもとに、筆者独自の分析手法を駆使し、具体的な解析結果を提示しながら、企業の実像を炙り出すように努めてきた。今回取り上げる東京ディズニーリゾートの運営会社・オリエンタルランドは、入園者に「夢」を与えるビジネスモデルである。その夢をどれだけ解析できるか、それへの挑戦である。

 そのために今回は趣向を凝らし、経営分析の世界では古典的名作とされる「利益増減分析表」を用いることにした。本連載では初登場の分析道具であり、これを使ってミッキーマウスやシンデレラ城の舞台裏にある「ソロバン勘定」を探ろうという試みである。

 以下では基本的に「東京ディズニーリゾート」の名称を用いる。次回のマクドナルド編と合わせて、アメリカ資本主義の「ブランド戦略」が、如何に凄まじい利益を叩き出すかを、ご覧に入れよう。

 もちろん、数値を操って一意的な解を示すよりも、東京ディズニーリゾートのビジネスモデルに触れながら、業績評価する解法もあるだろう。しかし、具体的なデータを明示することなく、「文章」だけで解を見つけ出すのは、議論百出して結論を得られないケースが多い。早速、一例を紹介しよう。

東京ディズニーリゾートが
最も盛り上がるのはいつか

 例えば東京ディズニーリゾートの場合、次の〔図表 1〕に掲げる5つの選択肢のうち、どれが妥当な解か、即座に答えられるだろうか。

「利益増減分析表」で暴く<br />東京ディズニーリゾートの舞台裏<br />なぜ大混雑していても高収益企業になれないのか

 直感的に考えられるのは、長期休暇(夏休み)のある第2四半期と、最大イベント(クリスマス)のある第3四半期のどちらかだろう、といったところだ。商売には「ニッパチ」というのがあり、2月と8月は業績が落ち込むので、8月のある第2四半期よりも、クリスマスのある第3四半期に軍配を上げる人が多いだろう。いや、子どもにニッパチは関係ない、という意見があるかもしれない。

 一方、「盛り下がる」のは、どの四半期だろうか。寒風吹きすさぶ第4四半期になるのだろうか。いやいや、ニューイヤーのイベントも侮れないぞ、という意見もあるだろう。筆者は当初、〔図表 1〕(5)が妥当なところではないか、と考えていた。

クリスマスにピークを迎える売上高と純利益

 具体的なデータがなければ、議論は堂々巡りする。具体的なデータがあれば、あっさりと片づく。その証拠として作成したのが、次の〔図表 2〕である。

「利益増減分析表」で暴く<br />東京ディズニーリゾートの舞台裏<br />なぜ大混雑していても高収益企業になれないのか

 〔図表 2〕は四半期ごとの推移を描いたものであり、上段が売上高、下段が当期純利益である。〔図表 2〕からは一目瞭然、赤色の垂線で描いた第3四半期が「山」となり、黒色の垂線で描いた第4四半期が「谷」になっている。〔図表 1〕の選択肢の中では、(3)が正解となる。

 ただし、〔図表 2〕は、1つの解を示したにすぎない。数値を使ったデータ解析の恐ろしいところは、一意的な解を示すことにより、そこから先の思考を停止させてしまうことだ。別の分析手法を用いると、「別解」が導かれる可能性があることを忘れてはならない。「舞台裏」といったほうがいいだろう。

 例えば〔図表 2〕は、売上高と当期純利益の推移を示したにすぎない点が落とし穴だ。繁忙期と閑散期という「季節変動」を表わしたものではない点に注意を要する。

 〔図表 1〕に示した選択肢のうち、どれが最も妥当であるかという「別解」を得るには、舞台裏をのぞく必要がある。順を追って説明しよう。