政府軍による(反体制側も拷問を行っているという証言もある)拷問の内容も衝撃的。一人の男性の証言によると、家に押しかけてきたアサドの軍隊員によって銃撃され、拷問を行う病院へと連行される。死体置き場へと放り投げられ、毎晩拷問が終わるとそこへ戻されることになる。

 拷問では好き放題に殴られ、逆さにつるされ、外科用のメスで腹を開き腸を切られ、乳首の下から背中の中央まで届く穴を開け吸引チューブで肺に穴を開けるなど、とても現実とは思えない過酷な拷問が行われていたケースが無数に浮かび上がってくる(ちなみにこの証言者は、医師が偽の死亡診断書を書いてくれたことにより脱出し、ぎりぎり生きながらえることができた)。

1センチ1センチ進んでいく

 取材は市街戦が起こっている街の政府軍や、市井の人々に対しても行われている。特に市街戦においては、政府軍も反政府軍も、もちろん市民も疲弊しつくしている様が描き出されていく。

 市街戦では戦況が膠着しがちであり、スナイパーが一日中銃弾を応酬しあい、建物を一軒一軒、道路を一本一本じりじりと制圧する/される苦しい戦いが続く。極度に長い時間死が隣にある日々。『「ひとつの建物を占拠するには何時間も、何日もかかるんだ」リファフは低い声で呟いた。「こんなふうに戦いは進むんだ。こっちが一センチ進むと、あっちは一センチ下がる。あっちが一センチ進むと、こっちは一センチ下がる」』とは政府軍側の兵士の弁だ。

“「でもわたしのような中立の者もいるから、なんとか仲良くやっていけるのよ。みんなうんざりしてるから近所づきあいはいいの。あなたはホムスが戦場だと聞いているでしょう。でも、爆弾と暮らすことを学んでいる人たちがいるってこと、知らないでしょ」”

 Twitterなどで発信できる時代だが、こうした“戦場”とみなされている場所で営まれているそのリアルな実情は、著者のようなジャーナリストがいなければなかなか表に出てこないものだろう。

おわりに

 本書でシリアの人々の実態を知ったからといって、我々に出来ることは多くはない。

 とはいえ、どれほど容易く破壊的な争いに陥ってしまい、元の生活に戻るのがいかに困難なのか。非人道的な拷問やレイプが当然のものになってしまう過程、そこでいったいどれだけの不幸が起こるのかという、“内戦”──その実態を、本書は心底まで実感させてくれる。声なき人に声を与える、ジャーナリズムの仕事のひとつの見事な達成の成果がここにある。

 HONZメンバーであるアーヤ藍が配給に携わったシリア映画はこちら

(HONZ  冬木糸一)