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「週刊文春」編集長の仕事術
【第32回】 2017年4月21日
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新谷学

無理だと思っても、まずは頼んでみよ。断られてからが我々の仕事である。ベストな選択肢から逃げてはいけない。

つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の一部を抜粋してお届けする。(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)

まず頼んでみる。断られてからが仕事

 飯島勲さんと出会ったのは、2001年のことだ。

 小泉政権が誕生してまもなく、ある新聞社の政治部長に「お前、飯島さん知ってるの?」と聞かれた。「いや、知りません」と言うと「小泉政権を取材するなら、飯島さん知らなきゃ話になんないよ」といって紹介してくれた。その政治部長と飯島さんと私とでホテルの中華料理店で食事をした。デスクだった私は「現役の総理に週刊文春のインタビューに出てもらうのが夢なんです」と伝えた。当時は小泉ブームが本当にすごかった。今まで現役の総理が週刊誌のインタビューを受けることなど考えられなかったから、小泉さんに出てもらえれば大きなインパクトがあると思ったのだ。飯島さんは「そうか、そうか。わかった、わかった」と言っただけだったが、感触は意外によかった。

新谷学(しんたに・まなぶ)
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

 その後飯島さんとサシで会うようになった。彼はいつも、赤坂プリンスホテルの「ポトマック」という喫茶ラウンジにいた。電話で「ポトマックに夕方5時」などと言われて、よく会ってもらった。しつこく「小泉さんに出ていただく話ですけど……」と言うと「ああ、わかった」とそんなやりとりが続いた。

 池宮彰一郎さんという歴史小説家がいた。小泉さんは池宮作品の愛読者だった。「池宮さんとの対談なら実現するかも」と思い、改めて飯島さんに頼んだ。結果的に小泉・池宮対談は2回も実現した。遂に週刊文春に現役の総理に出てもらえたのだ。今でこそそれほど珍しくはないが、当時は快挙だった。実現してくれた飯島さんには心から感謝し、池宮さんも交えて御礼の会食もした。

 飯島さんとの良好な関係はその後も続いた。ちょくちょく会っては「週刊〇〇、頭にきちゃうよな。訴えようと思うんだよ」「大変ですね」などと会話を交わしていた。

 しかし週刊誌の宿命で、ある日、当時の編集長に「小泉批判キャンペーンをやれ」と命じられた。私が担当デスクとなり取材班を組み、あらゆる角度から小泉批判をやり始めた。最初は、飯島さんもまだまだ余裕があり「またやってるのか。横須賀にも記者を入れてるらしいな」と電話がかかってくるくらいだった。私も「いやいや、まあまあ」とお茶を濁していた。

 そのうち、その鉾先が飯島さん本人にも向いてきた。「小泉訪朝の陰には北朝鮮の工作員と飯島さんとの密会があった」という記事が出た週のこと、飯島さんはブチ切れた。「もう訴えるぞ! 謝罪広告出させてやる!」と言われ、私も「しょうがないですね」と答えるしかなかった。結局、東京地裁に名誉毀損で訴えられた。飯島さんと私は証人尋問に出て直接対決することになった。

実現したいことがあるなら、難しそうでもまず頼むこと

 あれから約10年後、私は編集長になった。「何か政治コラムをやりたいな」と思ったときに最初に思い出したのが飯島さんだった。やはり飯島さんは永田町の裏の裏まで知り尽くしており、切れ味鋭く抜群におもしろい。激辛で本音ベースな人だ。間に入ってくれる人もいたおかげで、久しぶりに飯島さんと会った。「東京地裁以来だな」と言われた。私は「実は、飯島さんに政治のコラムを書いてもらいたいんです」と単刀直入にお願いした。断られるかと思っていると意外にも「俺でいいの?」と言う。すごく喜んでくれたのだ。かくして関係は修復された。飯島さんの器の大きさがありがたい。

 実現したいことがあったら、難しそうでもまず頼んでみることが大切だ。最初から可能性の幅を狭くしてはいけない。「あの人には一度怒られたから」「もうあの人は敵だから」「無理に決まっている」とあきらめるのではなく、やはりおもしろいと思ったら、相手が誰でもそこに縛りをかけないことだ。とにかく、常に「ベストのシナリオ」を描いて、まず頼んでみる。断られたら、また考えればいい。そして、1回断られたぐらいであきらめてはいけない。あなたの熱意はその程度のものなのか、ということだ。

 よく現場の人間にも言う。断られたところから俺たちの仕事は始まるんだ、と。「ファーストアタックは失敗だったけど、次はどういう口説き方があるか」を全力で考える。編集者や記者の仕事は、口説く仕事だ。そして、私たちの仕事にはマニュアルがない。「こうすれば口説ける」という答えはない。そこは、みんなそれぞれ考えるしかない。

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    新谷学

    1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

     


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