日本の中堅・大企業(以下、日本と略記)で観察されるキャリア形成は、一つないし二つの職能の範囲で仕事経験を積みながら「知的熟練」(普段と異なる変化と異常への対処能力)を高めていくパターンが主流である。

 つまり前の仕事の経験や習得したスキルが、今この仕事に連続的に活きる異動を重ねながらキャリアの幅は広がる。ジョブローテーションと呼ばれるこのような異動のパターンでは、不熟練の仕事への配置換えによる生産性の一時悪化(機会コスト)は小さくてすむ。しかし、人によっては属性的・技術的に関連の薄い部署への非連続な異動がかかることもある。非連続な異動とは前の仕事経験によって培われたスキルが、まるで役に立たないようなケースである。

 前回のコラムでは、ジョブローテーションを通して開発される知的熟練から、組織は効率という便益を獲得できることを解説した。同時に非連続な異動を通して、従業員(保有するスキル)と新しい役割(要求するスキル)の関係におけるスキルの「余剰」と「不足」のギャップを意図的につくり出し、それをイノベーションにつなげることの可能性を述べた。

 非連続異動の場合は、誰を配置すればパフォーマンスを高めるのかに関する推察力が問われるが、そのアレンジは「人材マネジメント型企業変革リーダー」の重要な役割である。そのように考えると、異動の企画に深く関わる日本の人事部は人材マネジメント型企業変革リーダーの側面を持っている。今回のコラムでは人事部が異動に関与していくことの意義を、日本型組織モードの関係から検討してみたい。

日本型人事管理の3つの特性

「Japan as No.1」と持ち上げられた1980年代、国際競争力の源泉として脚光を浴びた日本型人事管理は、次の3点において特徴付けられる。

1)多くの労働者を対象に知的熟練を高めるための「幅広いキャリア形成」、
2)知的熟練を促進するように設計された「人(能力)」基準のインセンティブ制度(評価と報酬の仕組み)すなわち「職能資格制度」、
3)異動にイニシアチブを発揮する「強い人事部」、である。