従業員のパフォーマンス管理にはさまざまな方法がある。そのために最も容易な施策の1つは、誰の隣に座らせるかを調整することである。本記事では、その驚くべき効能が明らかにされる。


 働き手のパフォーマンスを上げるために、雇用主は報償やインセンティブ、教育や研修などにしばしば投資する。こうした昔ながらのアプローチは、たしかに従業員のスキルを向上させ、仕事経験を豊かにする。だが我々は、生産性を向上させる驚くほど簡単な方法を発見した。低コストで、しかもたちどころに効果が現れる方法だ。それは、オフィスのよりよい座席配置である。

 我々が実施した研究から、従業員が誰の隣に座るかで仕事のパフォーマンスに影響が出ることがわかった。ふさわしいタイプの人と組めば、生産性が向上し、仕事の質が高まるのだ。

 研究の対象としたのは、米国と欧州に複数の拠点を持つ、テクノロジー系大企業の従業員2000人あまりである。彼らの2年間相当のデータを分析した(同社は、著者の1人であるジェイソンが勤務するコーナーストーン・オンデマンドのクライアントである)。

 我々は、以下の5つのデータソースを融合させた後、各従業員のユニークIDを作成した。

• 従業員データ(採用日、退社日、職位、報酬、直属の上司)を含むマスターファイル

• 全社的に実施された2つの従業員エンゲージメント調査

• 各従業員の勤務地と割り当てられたキュービクル(パーティションで区切られた各自のワークスペース)に関する月次報告

• 建物の見取り図と、フロアごとの各キュービクル間の距離がわかる間取り図

• 以下の3つの尺度で示される従業員のパフォーマンス

生産性: 1人の従業員が1つのタスクを完了するのにかかった時間の平均を測定。同社では、どの従業員のタスクも似通っており、一定の間隔で発生していた。

有効性: 1つのタスクを解決するために、1人の従業員がそのタスクを別の従業員に回す必要があった回数の1日平均を測定。従業員が自分の力ではタスクを解決できず、そのタスクが別の従業員に割り当てられた場合に発生した。

品質:クライアントのタスクに対する満足度を5点満点で測定。

 それぞれのパフォーマンス尺度について、我々は「波及効果」に着目した。つまり、オフィスで隣に座る人がパフォーマンスに及ぼす影響を測定したのだ。

 ある従業員に同僚が3人いるとしよう。1人は隣に座っていて、1人は8メートル離れたところに座っていて、もう1人は15メートル離れたところに座っているとする。我々は、3人の同僚のパフォーマンスと、従業員のキュービクルからの距離に着目し、さまざまなデータモデリング技法を用いて、同僚のパフォーマンスが従業員に及ぼす平均的な波及効果を測定した。

 その結果、働き手のパフォーマンスに隣の人が大きな影響力を持ち、それはプラスにもマイナスにも働きうることがわかった。影響の大きさについて言えば、パフォーマンスの約10%が隣人に波及することが明らかになった。パフォーマンスが平均的な従業員を生産性が2倍の従業員に替えると、その隣の席の従業員の生産性が平均で約10%向上したのだ。

 我々のデータのユニークな特徴の1つとして、従業員はチームおよびデスクに無作為に配置され、その後も定期的に、必要に応じて必要な場所に準無作為的に移動させられた。全社を司る人事部が、新しい従業員が無作為にやって来るたび、ほかの従業員を異なる場所に動かしたのである。このことから、隣に座る人がもたらす効果とパフォーマンスには因果関係があると示唆される。