「幸せ食堂」繁盛記
【第四七回】 2017年4月27日 野地秩嘉

知る人ぞ知る食いしん坊、長友啓典さんが愛した店

長友さんが行きつけだった店の人たちの声・その3


「チルドレン」の安居祐子さん。

大阪にあるカウンターのスナック。長友さんに連れていかれた人は多い。いただいた弔辞を“原文まま”でお届けする。

長友啓典様へ

あまりにも早い天国の招集礼状。寂しいじゃないですか~
もっとゴルフ一緒にラウンドしたかったです
チルドレンは友さんに出逢えたから33年も大阪ミナミで商売出来たんですよ…
思えば大阪にFMラジオ802が開局する時も長友さんが「とにかくチルドレンに行ったらええねん」と言ったので、

前社長が毎日のように通われた事
長友さんが伊集院静さんと度々来られてお店が小説になった事とか
井上陽水さんが突然入って来てギター弾いて流しをした事とかみんな友さんの紹介繋がりなんです
私が浪速の宮沢りえやと
酔って店で言うてたら
本物の宮沢りえちゃんとママが店に来て、ママにおもろいわと承諾もらって今でも私がりえちゃんと付き合いが続いているのも
全部、長友さんのおかげです!

感謝感謝しかないです

本当にありがとうございました

浪速の宮沢りえ事
チルドレンの祐子より

 

「京味」の西健一郎さん。

新橋にある京料理の店。包装紙のデザインは長友さんです。

「開店して間もなくから、ずっとお顔を見せて頂いていましたから、思い出は数えきれない程あります。とにかく、優しい方でした。うちの店の子が、うっかり、賞味期限の切れたビールをお出ししてしまった時、大笑いして、場を和ませて下さった事が忘れられません。またこれは、笑い話になりますが、たまたま、カウンターで隣席になった方が、焼酎に胡瓜を入れて欲しいと仰いまして。慌てて席替えをさせて頂いた事もありました。どこかで私の噂を聞けば、必ず励ましの電話を下さる。その温かい心を思い知る度に、有難くて、心底、嬉しかったです。先生の予約がある日は、楽しみでならなかったです。私の命ある限り、忘れる事は出来ない方です。長友先生と出会えた事に、心から感謝しております。長友先生、胡瓜なんか嫌いなままでいいですから、もう一度、会いたい」

 亡くなる1ヵ月前、長友さんとゴルフをした。ラウンドした後、風呂に入って汗を流した。湯船のなかから、髪の毛を洗っている長友さんの後ろ姿を眺めたら、痩せたなと感じたので、元気をつけなきゃと声をかけた。

「長友さん。背中、広いですね。がっしりしてます」

 長友さんは「そんな」と、シャンプーを落としてから、私の方を見た。

「最近、痩せたんやけどね。でも、野地くん、髪の毛、きれいやね。濡れた銀髪がきれいや」

 長友さんとわたしは恋人ではないんだけれど、恋人みたいな会話ですねとふたりで笑った。

 長友さんがブログに「最近、食欲がない。僕から食欲を取ったらどないするねん」と書いたのはそれから一週間後のことだった。

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野地秩嘉 

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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