私たちの体の中には、「体内時計」と呼ばれる時間が備わっています。
この体内時計を動かす源にあるのが「時計遺伝子」(体内時計をつかさどる遺伝子群)で、私たち人間の体はこの遺伝子によって、目覚める、お腹が減る、眠くなる、などといった生きるための基本的なリズムを刻んでいます。人体の活動の多くは時計遺伝子によって支配されているといってもいいかもしれません。
この時計遺伝子の働きに基づいた時間医学、時間栄養学といった最新の科学的知見をベースにして、体内時計に従って日々、常に快適で効率よく過ごす秘訣を『最新の科学でわかった! 最強の24時間』(ダイヤモンド社)より抜粋して紹介します。

就寝1時間前の入浴が<br />うつの発症リスクを下げる?

夜の時間の過ごし方を変えると、
心身の不調が改善される

 夜の時間の過ごし方次第で、メンタルの低下を防ぎ、うつなどの発症を抑えることも可能になってきます。
 まず、脳内ホルモンとメンタルとの関わりについて考えていきましょう。
 これまで述べてきたように、さまざまな脳内ホルモンの中で、睡眠と覚醒のサイクルに関わっているのはメラトニンとセロトニンです。

 睡眠ホルモンとして知られるメラトニンは、太陽の光が多い日中には分泌が少なく、日が暮れて夜になるにつれて増えてきます。その結果、眠気をもよおすようになる、というのが自然のリズムです。
 一方、覚醒ホルモンであるセロトニンは、朝の日の光で分泌が増し、メラトニンと入れ替わるように脳内をまわっていきます。

 混同しないよう気をつけなければならないのは、セロトニンには、朝の覚醒を促すことと心身を安定させることという、2つの働きがあるという点です。セロトニンによって心身の安定が促される際には交感神経優位が副交感神経優位に切り替わりますが、朝の覚醒の際には、睡眠時の副交感神経優位から活動時の交感神経優位への切り替えをおこなっています。

 日中は体温が上がる時間帯ですが、体温は自律神経の1つである交感神経が優位になると上昇し、副交感神経が優位になると下降します。交感神経が優位になった時に分泌されるのが、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどのホルモンで、これらが分泌されると心身は活動的になって緊張感が高まり、やる気がみなぎってきます。しかし、あまりに分泌されすぎるとワーカホリックのようになってしまうので、これを調整するためにセロトニンが分泌されるのです。

 日中に活動的になるのは自然なことですが、セロトニンが十分に分泌されていないと心身のバランスをうまくコントロールできなくなります。さらにメラトニンとセロトニンの分泌バランスも崩れてしまうため、こうした毎日が続くと、メンタルがどんどん不安定になるのです。

 セロトニン研究の第一人者である有田秀穂氏(東邦大学医学部統合生理学名誉教授)は、セロトニンの分泌低下がメンタルの不安定につながっていると指摘しています。つまり、うつの発症につながることもあるということです。

 メラトニンとセロトニンのバランスをよくするには、睡眠時間と覚醒時間、つまり夜の状態と昼の状態のメリハリが大事です。
 メラトニンが増えてくる夕方から夜にかけては、活動をつかさどる交感神経から休息をつかさどる副交感神経への切り替えのタイミングです。

 そこで、休息時に働く副交感神経を優位にするのにおすすめなのは、よく噛んで食事をとること、そして入浴です。入浴の効用は、文字通りリラックスです。湯船にゆっくり浸かる日本人は、とてもいい習慣を持っているといえます。夜の時間に意識してメラトニンの分泌を増やし、メンタルを整えることが大切なのです。

 体調が崩れがちな時だけでもかまいません。食事を早めにすませ、就寝の1時間ほど前にあたる22~23時にゆっくりお風呂に入り、その後少しクールダウンしてから就寝することを心がけてください。
 夜の過ごし方を「ゆったり」に変えるだけで、ちょっとした心身の不調なら、翌朝起きた時に十分改善されているでしょう。