金融危機の実物経済への影響がいよいよ明確になってきた。今までに見たこともないペースで経済状況が悪化している。12月14日に発表された日銀短観も、大企業製造業の景況感がマイナス24へと大幅悪化し、先の見通しはもっと悪い(マイナス36)。

 日本企業も雇用調整に動き出した。自動車大手各社は期間工の契約打ち切りから雇用調整に動き出したし、電機メーカーも非正社員の雇用を絞り始めた。

 あらゆる意味で象徴的なのは、全社員の1割に相当する1万6000人の人員削減計画を発表したソニーだろう。削減対象の約半数が正社員というところまで踏み込んだ。

 ソニーは約半年前に発表した前年度決算で史上最高益を上げたが、早くも雇用に手をつける。日本の企業としては異例の早さだが、外国人株主が多く、売り上げの8割近くが海外の国際企業なので、「いかにも」の感がある。本来、事業計画は過去の業績ではなく、将来の需要見込みに適応すべきなので、追随者は多いだろう。

 企業のリストラは、従業員にとっては避けたい事態だが、株主にとっては、基本的に「よいニュース」だ。ソニーに限らず、近年、傾向として、企業経営者の意思決定が「従業員寄り」から「株主寄り」に変化した。

 これは年金基金の運用担当者などから見ると「コーポレートガバナンスの進歩」ということだ。この場合、その年金の加入者には、リストラの対象になった社員が含まれるかもしれない。ロバート・ライシュが『暴走する資本主義』(雨宮寛、今井章子訳、東洋経済新報社)で書いたような、被害者が同時に加害者でもある構図だ。

 企業が営利を目的とする以上、リストラが経済合理的ではないという判断を経営者が持つような状況にならない限りリストラは止まらないだろうし、止めるように圧力をかけるべきでもない。