橘玲の日々刻々 2017年5月1日

米中のもっとも合理的な解決策は、中国が北朝鮮を「植民地化」すること
[橘玲の日々刻々]

 事態が急速に動いているのでこの原稿が掲載される頃にはどうなっているかわかりませんが、風雲急を告げている北朝鮮情勢についてすこし別の角度から推理してみます。

 2月13日、金正日の長男で金正恩の異母兄である金正男が北朝鮮の秘密工作員の手によってマレーシアの空港で暗殺されました。その前日、北朝鮮は新型中距離弾道ミサイルの発射実験を行なっています。

 4月6日夜、トランプ米大統領と習近平国家主席の米中首脳会談の最中に、化学兵器の使用を理由に米軍がシリア・アサド政権の空軍基地を巡航ミサイルで攻撃します。その前日には、北朝鮮が日本海に弾道ミサイルを発射しています。

 そしてトランプ大統領は、「あらゆる選択肢を排除しない」として、朝鮮半島周辺に向けて原子力空母カール・ビンソンの派遣を命じました。北朝鮮が核実験を強行するなら先制攻撃も辞さないと、後ろ盾である中国に強い圧力をかけているとされています。

 この間明らかになったのは、ロシアはもちろん日本と韓国も蚊帳の外に置かれていることです。「ゲーム」の参加者は米中と北朝鮮の三者ですから、それぞれの利害を考えてみましょう。

 もっともわかりやすいのは北朝鮮で、金正恩体制の維持がすべてに優先します。米国は北朝鮮の大陸間弾道弾保有を認めないでしょうが、できるのは核施設の空爆までで、北朝鮮に米軍を進駐させてイラクのような泥沼にはまり込むことはトランプの「選択肢」にはありません。ただし、ローコストで(米兵の血を流すことなく)北朝鮮問題を解決できれば自らの威信を世界に示すことができますから、これほどウマい話はないでしょう。

 難しいのは中国で、もっとも避けなければならないは北朝鮮が崩壊し韓国に併合されることです。中国と北朝鮮は「血の同盟」とされており、人民解放軍の大きな犠牲によって米韓の帝国主義から北朝鮮の同胞を守ったことになっています。それを失うことは中国共産党の正統性を根底から揺るがし、習近平政権は軍や民衆のナショナリズムの奔流に押しつぶされてしまうからもしれません。その一方で、金正恩をコントロールできないまま擁護しつづければ国際社会の非難を免れないばかりか、核ミサイル開発が米軍の軍事行動を誘発しかねません。

 そのように考えると、じつは米中双方にとってもっとも合理的な解決策は、中国が北朝鮮を「植民地化」することになります。具体的には、クーデターで金正恩政権を倒し、中国の傀儡政権にしたうえで核施設を廃棄するのです。 

 このオプションは「現代の帝国主義」としてオバマ民主党はぜったいに認めなかったでしょうが、トランプはそんな理想に興味はありません。だとしたら首脳会談で、中国が北朝鮮問題をどのように「解決」しようが勝手だと示唆しているかもしれません。

 金正恩もそのリスクに気づいていて、だからこそ傀儡にもっとも適した義兄が生きていてはならなかったのです。ミサイル実験を繰り返すのは米国への牽制というよりも、習近平へのメッセージでしょう。もしこのシナリオが正しいとしたら、中国を思いとどまらせる唯一の方法は、クーデターを画策すれば核攻撃で周辺地域に大混乱を引き起こすと脅すことだけだからです。

 核ミサイルの標的はソウル、沖縄、東京でしょうが、そこに北京が加えられても不思議はありません。

追記:この記事を入稿したのは4月14日ですが、その後、同様の分析が出てきました。たとえば4月16日付日本経済新聞の「風見鶏 北朝鮮は中国の手で」(編集委員 大石格)は、「トランプ政権は発足直後、中国に「朝鮮半島の北半分は好きにしてよい」と伝えた」という“噂”を書いています。

『週刊プレイボーイ』2017年4月24日発売号に掲載

 

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。最新刊は、小説『ダブルマリッジ』(文藝春秋刊)。

橘玲『世の中の仕組みと人生のデザインを毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中) 


作家・橘玲の切れ味鋭い見解が毎週届く!
有料メルマガの
無料お試し購読受付中!
お試しはこちら

橘玲の書籍&メルマガのご紹介
世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。
経済、社会から国際問題、自己啓発まで、様々な視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。
「世の中の仕組みと人生のデザイン」 詳しくは
こちら!
橘 玲の『世の中の仕組みと人生のデザイン』 『橘玲の中国私論』好評発売中!

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。