ネットDER(有利子負債倍率)が大幅に低下し、財務改善が進んだ丸紅は、遅れを取り戻すべく積極投資を開始した。収益拡大と資本効率化の“二兎”戦略は功を奏するか。

 商社が“資源で稼ぐ”ようになって久しい。このほど発表された2010年度決算では、三菱商事の当期純利益が前期比69%増の4632億円となるなど、各社が揃って大幅増益となった。商社が扱う石炭や鉄鉱石の生産地であるオーストラリアの豪雨や、東日本大震災の影響等のマイナスも、資源高による収益が埋めて余りある。

 その資源高の恩恵を長らく受けることができなかったのが、丸紅である。図①をご覧いただきたい。各社の純利益における、金属とエネルギーを合わせた資源分野からの収益の割合を示した。資源偏重は価格の業績へのインパクトが大きく、比率が高いほうがよいというものではない。しかし、資源分野からの収益では丸紅は5番手、他社に劣後している。

 他商社は、原油高が始まる04年以前に、資源権益への投資を進めていた。たとえば、三菱商事は01年に資源メジャーのBHPビリトンと50対50の出資比率で石炭事業の操業に着手した。三井物産も、03年に世界最大の鉄鉱石生産・販売会社であるヴァーレの持ち株会社の株式を15%取得し、権益の5%を確保した。資源分野それも上流権益を押さえる投資戦略が、現在の高利益につながっている。

 一方、当時の丸紅はバブル崩壊とアジア危機の影響で業績が悪化。01年に株価は58円まで落ち、有利子負債から現預金を差し引いたものが株主資本の何倍であるかを示すネットDERは、02年3月期に10.1倍にまでなった(図③)。

 ネットDERは、返済義務のある負債が返済義務のない株主資本でどこまでカバーされているかを示し、一般に1倍を下回ると財務が安定していると評価される。改善する方法は二つしかない。負債の削減か、利益拡大による資本増強だ。財務改善による危機脱出が最優先課題となった丸紅に、莫大な資金を必要とする資源分野への投資を行う余力は乏しかった。

 丸紅が積極投資を再開したのは、ネットDERが2.8倍まで改善した06年頃だ。米国メキシコ湾での原油権益を約1360億円で取得、08年には、チリで二つの銅鉱山のそれぞれ30%の持ち分を合計約2000億円で得た。どちらも過去最大級の投資案件となったが、06年当時、すでに資源価格は上昇していた。丸紅の積極投資は、「高値づかみ」との批判が少なくなく、投資家からは「体力に見合わない」「投資が目的化しているのではないか」とも指摘された。株主資本の薄さに対して投資額が大きく(図②)、他商社が海外企業とのパートナーシップ強化を核とする戦略の明確化を図ったのに対し、丸紅の投資戦略には曖昧さがあったからだ。