異分野をつなげるだけでは
イノベーションは起きない

 昨年9月、日本財団はマルチセクター推進のためのイベント「ソーシャルイノベーションフォーラム」を開催した。30にも及ぶ分科会やシンポジウムが行われ、有料で平日の日中3日間の開催ながら、ソーシャルセクターだけでなく、行政セクター、ビジネスセクターなどさまざまな分野から参加者が集まり、企画者の予想を上回る盛況を呈した。

 社会課題そのものを話し合うイベントであれば多くの分野からたくさんの人が参加しても意外ではないが、ソーシャルイノベーションのみをテーマとしたイベントで2200人もの参加者が集まったことに、社会にイノベーションが必要とされているという問題意識の高さが表れている。

 とはいえ、単に異分野の人たち同士を集めて紹介すれば、そこに「融合」が起きるわけではない。一企業内でも、誰かが「営業部門でこういうことを始めるそうだが、企画部門の君たちも協力するといいんじゃないか?」と呼び掛けたぐらいでは、物事はまず動かないものだろう。

 社会課題解決のためのプロジェクトは個人やNPO(民間非営利団体)が当事者となって動かしていることが多いが、行政に対し、「ここに行政が取り組むべき社会課題がありますよ」と呼び掛けるだけでは行政を動かすことはできない。また、「この社会課題を解決する事業は、御社のビジネスになり得るのでは?」と企業に呼び掛けたところで、そう簡単に乗り気になる企業はないだろう。

 では、どうやってソーシャルセクターに行政や企業といった別のセクターを巻き込むか。

 2004年、宮崎県で日本初のホームホスピスがつくられた。ホームホスピスとは、さまざまな事情から自宅での生活が難しい患者が1つの家に集まり、介護や看護を受けながら暮らせるホスピス(終末期ケア施設)のことだ。

 このホームホスピス「かあさんの家」にならって、他の地域でもホームホスピス開設の動きが広がり始めたが、個人が集まって小規模に始めた「かあさんの家」は人材育成に手が回る状況ではない。そこで13年、日本財団が人材育成のための資金助成をスタート。同時に、この新たな枠組みの民間施設にとって望ましい、行政との関係づくりについてもサポートを行うことを決めた。

 こうした支援を決めた日本財団の狙いは、「かあさんの家」という1つの事業を支援して成功事例として行政に見せること、そしてその成功の鍵となった要因は何かを分析して、他の場所でホームホスピス事業を展開する際にも応用可能なノウハウとして練り上げることだった。

 いくら社会的ニーズがあっても、うまくいくかどうか分からない事業に行政を巻き込むのは難しい。しかし、仲介役となる日本財団が成功モデルを見せ、開設資金や人材育成の基盤を担い、他の場所でも応用可能な運営の仕組みを構築してみせれば、行政はずっと動きやすくなる。

 単なる「紹介」ではなく、ソーシャルセクターと行政セクターが連携できる舞台を用意する。日本財団のマルチセクター推進は、このようなアプローチで行われている。