[ソウル 8日 ロイター] - 韓国大統領選挙で最有力とみられている文在寅(ムン・ジェイン)候補は、消防士や教師、警察官の採用を増やすと公約しているが、最重要の目標は、アジアで4番目の規模を誇る同国経済の脆弱な回復を守ることだ。

文氏は8日投開票の大統領選で本命視されており、9年ぶりの革新系大統領になるとみられている。ただ、増税に踏み切るなど、保守政権の政策を根本的に変える可能性は低いとエコノミストは予想する。

文氏が経済政策顧問として抱える保守系エコノミストの金光斗(キム・クァンド)氏は、新政権において首相や閣僚に任命される可能性があるとメディアは報じている。文氏のアドバイザーの中には、金氏と同様、減税と規制緩和を長年主張してきた人物がいる。

文氏の選挙運動に深く関わった関係者は、文氏が、弱い経済回復を傷つけないよう慎重に行動するだろうと指摘。政策の大転換が当面行われなければ、市場には好材料となる。

だが保守的な政策を継続すれば、文氏が公約する年間50万の新規雇用の創出は難しくなる可能性があり、重要な有権者層に影響するだろう。韓国統計庁によると、15─29歳の就労可能な国民の11%以上が3月に失業しており、国全体の失業率の4.2%を大きく上回っている。

「文氏は、他の候補者よりもリベラルには見えない。当初は急進的なことをやろうとしていると思ったが、現在は方針を変更し、市場の安定を重視しているようだ」と、メリッツ証券の首席エコノミスト、スティーブン・リー氏は話す。「軟着陸を目指しているようだ」

最近の経済統計では、輸出は6カ月連続で増加、第1四半期の経済成長率も上昇しており、中央銀行と政府は経済見通しを上方修正した。

文氏が率いる最大野党「共に民主党」の389ページに及ぶ選挙マニフェストのうち、新規雇用などの社会保障政策向けの財源確保について割かれた箇所はわずか4ページ。それも「富裕層への課税強化」や「不公平な行為に対する罰金強化」などの曖昧な説明に終始していた。

文氏は過去数回の討論会で対立候補から、何万もの新規雇用創出に必要な財源をどう手当てするのか何度も質問されたが、詳細な説明はせず、新たな税金の創設にも言及しなかった。

法人税や所得税の税率を幅広く引き上げるよりも、文氏は富裕層や最上位の給与所得者に着目すると、同氏の選挙アドバイザーは話す。

「政策の基盤はリベラルだが、実行方法は穏健だ。(文氏陣営は)有権者の主流派を心配させたくないからだろう」とある政府高官は指摘する。この高官は、政権移行を円滑にするため、各候補の公約を検証して政策を練る作業を担当している。

<朴氏の元アドバイザー>

文氏の経済政策を担う金氏は、2012年の大統領選で保守派の朴槿恵(パク・クネ)前大統領のアドバイザーを勤め、同氏の減税や法人規制改革などの公約を立案した。

朴氏は3月、汚職スキャンダルを巡り罷免された。

金氏は最近のロイターのインタビューで、昨年文氏から誘いを受けて選挙陣営に入ったとした上で、文氏の経済再生にかける「本物の誠意」に感銘を受けたと話した。今回の記事の取材には応じなかった。

西江大で教授を務める金氏は、地元メディアでは頻繁に首相や閣僚候補として名前が挙がっている。同氏は、朴政権では公職につかなかった。

ほかに文氏に助言するのは、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で経済補佐官を務め、世界銀行やIMFにも勤務した趙潤濟(チョ・ユンジェ)教授と、過去20年にわたり株主の権利を使ってチェボル(財閥)改革をを求める活動を続け、「チェボルの狙撃手」として知られる金尚祚(キム・サンジョ)教授だ。チェボルは、韓国の同族経営による強力な複合企業体を指す。

趙氏は、政府ではなく市場が経済を主導すべきだという考えの持ち主として知られる。

両氏の名前は、政府要職の有力候補として地元メディアに取りざたされている。

文氏の経済チームは、米国などで保護主義的な傾向が強まるなかで、まだ弱々しい経済の回復を軌道に乗せ、高い若年層の失業率や、拡大する家計負債、急速に進む高齢化に対応しなければならない。

朴前大統領が複合企業体から不正に資金を拠出させたとされる政治スキャンダルの後だけに、チェボルの改革も優先課題となる。

文氏は、チェボルの過剰な権力を制限し、株主本位の企業ガバナンスを促進すると約束している。だが、チェボルは韓国経済の約半分を担っているとの推計もあり、一部で期待されているほどの強硬な改革は実現できない可能性もある。

「文氏は、穏健派の有権者を取り込むことに集中しており、以前行った強硬な発言のトーンを弱めている。急進的な経済改革はないだろう」と、カトリック大のYang Jun-seok教授は指摘する。

(Christine Kim記者)