昨秋、尖閣諸島問題を機に日中関係が悪化し、中国はレアアースの禁輸に踏み切った。輸出再開とともにレアアース危機は収束したかに見えたが、今度はレアアース価格が高騰し、日本が輸入できない事態に陥っている。幅広い分野でレアアースを使う製造業は悲鳴を上げる。まさしく、レアアース危機再来である。

「中国以外で生産を予定しているレアアース鉱山の長期契約について、相談に乗ってほしい」

 6月某日、愛知県にあるトヨタ自動車本社には、大手商社の資源開発部門の社員が出向いていた。話を持ちかけたのは、トヨタのハイブリッド車「プリウス」の調達担当者である。

日中レアアース問題再浮上<br />価格吊り上げに製造業が悲鳴輸出用のレアアースが積み上げられた中国江蘇省の港。現在他国での鉱山開発が進むが、ネオジム、ジスプロシウムといった、中国依存度の高いレアアースも多い
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 レアアースとは、31鉱種あるレアメタルのうち、17元素の総称のこと。自動車や電化製品の原材料として使用されたり、製造工程で利用される。その供給量の8割が中国に依存している。

 プリウスの駆動モーターには、ネオジム、ジスプロシウムを原料とするレアアース磁石が使われている。トヨタは、これらのレアアース磁石を信越化学工業など素材メーカーを通じて調達している。傘下の企業で使用されるレアアースを直接調達する場合には、系列商社を通じた「スポット取引」が中心だったが、今回はトヨタ自身が長期契約を検討しているのだ。「サプライチェーンの川下にある完成品メーカーが、鉄鋼のようにコストに占める構成比が高いわけでもないレアアースの長期契約を検討したところに、トヨタの強烈な危機感がある」と、経済産業省幹部は言う。

 7月から、信越化学工業はレアアース磁石の出荷価格を4割引き上げることを決めた。ネオジムやジスプロシウムの高騰により、原価を吸収できなくなったのだ。とかく値上げ幅ばかりが強調されがちだが、ポイントは価格改定の時期にもあり、従来の3~6ヵ月更新から毎月見直される契約に変更された。あまりに急激に価格高騰が進むので、従来の商習慣が通用しないというわけだ。顧客は自動車メーカー、電機メーカーといったジャイアントでありながら、素材メーカーはたび重なる値上げを堂々と宣言するという異常事態になっている。

「レアアースに関する諸問題とサプライチェーンでの対応について」──。6月2日、レアアース問題を所管する経産省製造産業局長名が付された1枚のペーパーが、自動車、電機、事務機といった製造業の業界団体を通じて、完成品メーカーに届けられた。