もちろん、以上に述べたことは一種の夢物語に近いものであって、現状では実現可能性が乏しいように見えることは百も承知である。しかし、もう一度よく考えてみてほしい。報道された提言案と、荒唐無稽に思えるかもしれない「1国2制度案」のどちらがより実効性のある復興に資するだろうか、どちらがよりワクワクするだろうかと。従来の諸施策の延長線上で物事を考えるのではなく、未曾有の大震災に見舞われた今回こそ、まさに飛躍的な発想が必要ではないか。

 農林水産業の復興には大胆な規制緩和が不可欠

 東北地方は元来が豊かな大地であって、海洋資源にも恵まれている。三陸沖は世界3大漁場の1つであることはよく知られている通りだ。東北地方の地域に根ざした産業は、まず第1に農林水産業なのだ。そして、東北地方の農林水産業の復興を果たすということは、世界に負けない強靭な競争力を有した農林水産業を新しく東北地方で創出するということと、ほとんど同義である。このことに誰しも異論はないだろう。

 そのためには、農地法や漁業法等、農林水産業に係る諸規制の束縛を離れて、地元が自由な復興プランを創出できるように手助けする必要がある。1国2制度案の主眼を、農林水産業に係る諸規制については、いったんすべてを白紙に戻して、その具体的な取扱いを特区に委ねることに置くべきであることは言うまでもあるまい。

 また、農林水産業従事者の住まいをどうするかという問題も劣らず重要である。一般的なコンセプションとしては、高台のコンパクトシティに勝るものはないように思われるが、その実現のためには、土地所有に係る諸規制がやはりネックとなる。この問題についても、少なくとも農地法や漁業法と同程度に、特区に所要の権限を付与する方向で検討がなされることが望まれる。

徴税権をどこまで付与するか

 ところで、徴税権を具体的にどこまで特区に付与するかという問題は実に悩ましいものがある。なぜなら徴税権は近代国民国家の権力そのものの一部を担っているからだ。しかし、ヨーロッパの一部の国のように、徴税権は元来地方自治体に属しているものであり、国民国家の成立を機に、中央政府に便宜的に上納されたものとしてとらえる見方もある。

 そのような見方に立脚すれば、徴税権を一時的に地方に大政奉還してもいいではないか。これからの税制の根幹となるべき消費税はやはり国に徴税権を留保すべきだと考えるが、時限立法であることに鑑みれば、所得税や法人税については、この際、思い切って特区に徴税権を移譲しても差しつかえないと考える。