先日、フィラデルフィアで開催されたペンシルベニア大学ウォートンスクールが主催する「ピープル・アナリティクス・カンファレンス」People Analytics Conference 2017に参加してきた。その名の通り、ヒトに関するデータをどう活用していくのか、多くの企業や教授が最先端の事例を議論するカンファレンスである。ここで感じた人事領域の大きな潮流を踏まえて、日本の人事にも訪れる大きな変化についてまとめたい。

人事のデータはどこまで定量化できるか

「ピープル・アナリティクス・カンファレンス」(以下PAC)が初めて開催されたのは2014年で、今年で4回目である。HR領域における大きなイノベーションであるリンクトインが上場したのが2011年、HRテックのスタートアップで初のユニコーンであるZenefitsが5億ドルを調達したのが2015年。グーグルの働き方をまとめた『Work Rules』が刊行されたのも2015年であり、米国では数年前からすでにHR領域で大きな変化が起こっており、依然として大きな関心事となっている。

 とりわけ米国では、人材に関するアプローチが「経験や直観」から「データや論理をいかに取り入れていくか」という点に大きく変化しているのである。

 では、米国ではなぜここまで「ヒト」に関するアプローチの変化が加速しているのだろうか。大きな要因として、米国では年齢、性別はもちろん、母語、出身国、宗教など、日本とは比べ物にならないダイバーシティが組織に求められる。そのため、村社会的な暗黙の了解では公平性などを担保することができず、より定量的に判断していくことが求められるのである。 

 ダイバーシティにより組織が崩壊しては本末転倒である。加えて、米国ではダイバーシティに関するコンプライアンスが日本に比べて遥かに厳しい。チーム・ビルディングとしても労務問題としても、ダイバーシティは重要なテーマなのだ。

 今回のPACで中心的なテーマとなったのは「ダイバーシティ」や「エンゲージメント」であった。オープニングでは、主催者であるウォートンスクール教授のアダム・グラントと『ティッピング・ポイント』などの著者であるマルコム・グラッドウェルのパネルディスカッションが行われた。

 マルコム・グラッドウェルは、「ヒトに関する部分は変数が多く、まだまだ経験則のほうが有効ではないのか」という問題提起を行った。それに対して、アダム・グラントは経験則の重要性を認めながらも、「データによる組織やヒトの分析は有効である」という主張を行い、詳細についてはこの後に行われるセッションのテーマとした(ちなみに、マルコム・グラッドウェル氏とカンファレンス後に話した際、分析について決して否定的なのではなく、カンファレンスのオープニングとして大きなイシューを提議したと話していた)。