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連載経済小説 運命回廊
【第47回】 2011年7月4日
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村上卓郎

仕上げ

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【前回までのあらすじ】
隆嗣は祝平と組んで、李傑に対して巧妙なトラップを用意した。何も知らない李傑は、祝平の100万元の要求をきっかけに、裏金づくりに関心を寄せていった。ジェイスンが勤めるフォーチュン銀行で偽名口座をつくり、裏金の準備は完了。それこそ、隆嗣が仕組んだ復讐の罠だった。

(2008年11月、シンガポール)

 KLIA(クアラルンプール国際空港)を午前中飛び立ったシャトルフライトは、僅か1時間で隣国シンガポールのチャンギ空港へ降りた。

 昨夜、船積みを見届けてからチュアが招いてくれたスチームボードレストランで痛飲した李傑は、少々二日酔い気味だった。

 海鮮鍋に舌鼓を打ちながら、ビールに始まりブランデーのボトルまで空けた賑やかな祝宴で仕事を労ってやった山中と石田も、今頃はまだクアラルンプールのホテルで頭を抱えているだろう。

 彼らの仕事は終わったのだ。今朝、ホテルで別れを告げた時には、石田はまだ眠そうな顔をしていたし、山中も酒気が残る見苦しい顔を見せたくなかったのか、私の目を見ることなく言葉少なに別れを告げただけだった。

 彼らは今夜のフライトで上海へ戻るだけのこと、それまでホテルのベッドで過ごしておけばいい。

 しかし、私にとっては今日こそが一番大事な仕事の日。金額の張るL/C決済の手続きを済ませてやるために、胡散臭い華僑に付き合ってわざわざシンガポールまで来てやったんだ。その労に報いる報酬があるのは当然だろう。

 頭に冴えを呼び戻してやり遂げなければならない。李傑は自分に言い聞かせ、隣を歩くチュアに歩調を合わせてシンガポール入国のためイミグレーションへ向かった。

 二人が乗ったベンツのリムジンタクシーは、空港から中心部へと結ぶイーストコーストパークウェイをかろやかに走った。左手に見える蒼い海と白い照射を浴びせる太陽に、李傑は南洋へ来たことを改めて実感した。

 マリーナセンターのホテル群やショッピングセンターの脇を通り抜け、シンガポールリバーの河口に架かる橋を渡ると、マーライオンとクラシックなフラトンホテルを左右に見た。

 やがて、車は銀行名を冠した地上50階はある超高層ビルの車寄せに進入して停車した。慌しく人が行き来する銀行のエントランス付近で、明らかにインド系と分かる口髭をたくわえた漆黒の肌を持つ男が、ラフな半袖ポロシャツ姿でチュアを出迎えた。チュアも半袖の柄シャツで、前をだらしなく開けている。そんな二人が握手をしている光景を見て、自分ひとり背広を着込んでいることに、李傑は思わず苦笑いした。

 「彼が、トンネル会社を用意してくれた人物です。名前は言わずにおきましょう」

 銀行店内へ入ると、漆黒の人物が事前に予約していたのだろう、すぐに三方をパーテーションで区切られた簡単な応接セットへ通された。昨日ポートクランで船積みしたB/L(船積証券)とインボイス、パッキングリストの書類を広げたチュアが、インド系シンガポリアンに向かって口を開く。

 「あとは、L/C条件に入っていた検査確認書にミスターリー(李)がサインをすればオーケイ。書類を銀行に提出して、金を引き出してくれ」

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村上卓郎(むらかみ・たくろう)

1965年生まれ。大学在学中に中国へ留学。会社勤務にて貿易業務と海外駐在を経験。現在は独立して貿易仲介業を営む。初めて書いた『認命(レンミン)――さだめ』が第3回城山三郎経済小説大賞で最終候補に残り、選考委員から絶賛される。


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