就業規則にはないけれど…
組織に必ずある「暗黙の了解」

出世の口約束が反古に…企業に蔓延「裏切られた感」の正体明文化されていないだけに、約束が不履行に終わったときにモヤモヤ感が後を引く――。どこの組織にもある「暗黙の了解」を、ビジネスマンはどう理解したらいいのだろうか?

「飲み会は必ず出なくてはいけないのですか?」

「始業時ではなく、それより前に来る必要はあるのでしょうか?」

「携帯でメモをとるなという合理的理由はなんですか?」

「有休を申請すると文句を言われるのはなぜでしょうか?」

 新入社員が来る4月から夏にかけて、上記のような事項がよく話題にのぼる。今の50代以降の管理職から見れば、どれも「常識レベル」の話のようだが、それ以下の世代にとっては、ここに挙げられた疑問にはうなずけるものも多いと思われる。

 毎年のように、春になるとこのような「世代間の認識ギャップ」が注目されるが、なぜそのようなギャップが生じるかについては、あまり議論されないように思う。今回はその理解のために重要な概念を紹介したい。

 近年、ビジネスのグローバル化が進むにつれ、注目されてきている経営学の概念がある。「心理的契約」と「暗黙的契約」というものだ。前者から紹介する。

 心理的契約とは、企業で働く個人とその上司や雇用主との間に、契約書などで明文化されている内容以外に、相互に期待しあう暗黙の了解を意味する。つまり「言葉には出さないが、これくらいのことはすべきだし、やってくれるだろう」という期待だ。これは部下と上司の間で、相互に持たれる信頼に基づいた契約である。

 冒頭の例でいえば、新入社員の「飲み会は必ず出なくてはいけないのですか?」という疑問には、「飲み会は仕事の一部、すなわち業務契約と考えるべきなのか」という「心理的契約か否か」という問いが含まれている。もちろん、明文化された就業規則にはそのようなことは書かれていないため、「心理的契約に含まれるかどうか」が重要になるのだ。

 そしてもしこの答えが「イエス」ならば、「では飲み会に参加した時間は、残業手当がつくのか」という疑問は、心理的契約の概念からすると当然かつ合理的なものとなる。心理的契約は「契約」なのだから、その履行に際しては、履行者に対して何らかの「見返り」が与えられるはずだからである。

 この考え方は、人類学や社会学で1900年代前半に考えられた「社会的交換」という考え方をベースに、心理的契約という概念がつくられたことに由来する。社会的交換とは、金銭を含むさまざまな「資源」を「やり取り」することを意味し、そのおかげで、社会の秩序や共同生活が保たれているとされる。