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声に対する興味が入り口だった!

 「憧れの職業」である声優。アニメのキャラクターに命を吹き込む仕事は人々から大いに注目を集め、特に女性声優たちはアイドル的存在になりつつあり、いかにも華やかな世界だ。

 そんな声優業界で、「DAW※ができる声優」として話題になった人物がいる。「のんのんびより りぴーと」の宮内れんげ役などで知られる小岩井ことりだ。

※デジタルオーディオワークステーション。PCとインターフェース、DAWソフトウェアなどを組み合わせ、PC上で音楽制作ができるようにしたシステムを指す言葉だが、「DAWしてる」など、動詞のように使うことも。

 動画投稿サイトなどとも親和性が高く、ここ10年ほどで一気に大衆性のある趣味になったDAWだが、一定以上のクオリティーの作品を作るには技術を必要とする、「難しい」といったイメージも根強いのではないだろうか。

 小岩井ことりさんは、DAWをはじめたきっかけについて、次のように話す。

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「声優になりたての頃に、『自分は何もできないな』という想いがあって。まず色々な声を分析してみることにしたんですよ。それで、調べてみると、DAWを使えば、自分の声のことも調べられるということがわかって……。

 そこで気になる素材を読み込んで、『この声は、なんで悲しく聴こえるんだろう』『息がどれくらい混じってるとスペアナ※のここが盛り上がるんだろう』って研究してみたんです。それで、いろいろな声の波形を調べて、なるべく同じ形になるよう真似したり、真似しても真似ができないものが感情なんだ、ってわかったり」

※スペクトラムアナライザー。縦軸を出力、横軸を周波数帯域としたグラフ

ー─なるほど! 声優さんらしい独特の入り方で驚きました。しかも理系的なアプローチですね。試してみて、どんな発見がありましたか?

「私の声は特にこもっているというか、落ち着いているというか。キンキンするところが少なめなんだな……と。周波数でいうと、3000Hzあたりが少ないタイプの声なんです。これは声優さんらしい抜けがいい声とは違うんですけど、役柄によって使い分けるのには便利な声質なのだと思っていますね。ボーカルを作る際には、曲調によっては、そのあたりをイコライザーで持ち上げる処理をしています」

ー音や声に対する純粋な興味が、DAWの世界に入ったきっかけなんですね

「はい。出発はそこです。今は、もしチャンスがあれば作詞家、作曲家としてもアニメ業界に関われたらいいなぁと思っています」

 コンプレックスともとれる感情から、声に強い興味を抱くところはよくある話かもしれない。しかし、それを分析し、そのためのツールを入手するところに、小岩井ことりの稀有な意志が感じられないだろうか。

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起きた瞬間から作曲ができるように、ベッド脇に機材!

 いまではDAWの経験を積み、制作環境にもこだわっているそう。そこで普段使用している機材について質問してみた。

ーちょっと驚いたのですが、U87Ai※も所有していらっしゃるとか?

※ドイツのオーディオメーカーであるノイマンのコンデンサーマイク。大手レコーディングスタジオでも導入するほどの高級機で、流通音源のレコーディングで使われることも多い

「はい。仕事のレコーディング環境に近いものを、自宅でも使いたいと思ったんですよ。調べたら、U87というものだということがわかって。そこからいつもお世話になっている大阪のレコーディングスタジオに相談しました。業界標準のマイクだということがわかったので、『じゃあ、買っても損じゃないよね』と思って」

ー決して安い機種ではないです。思い切りがいいですね!

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「今思うと『なかなか思い切りがよい買い物だな』って自分でも思います(笑)。声を録るときに緊張してしまうのを治したくて。『普段使っているものを持っていたらスタジオでも緊張しないかもしれない!』という、間違った思い切りだったのかもしれませんが(笑)。でもいい買い物だったと思っています」

ーオーディオインターフェースは何を使っているんですか?

「オーディオインターフェースはスタインバーグの『Cl2』をずっと使っていたんですけど、少し前からApollo Twin USBを使い始めました。色々なプリアンプをエミュレートしながらレコーディングできるので、音質がすごくいいんですよ! 私はアナログ音源は主に声を録るだけなので、入力は2つで十分なんです」

ー家もレコーディングのできる環境にしているんですよね。

「家を選ぶ段階でも、自分が大きな音を出しても迷惑にならないところを選んでいて。起きた瞬間に仕事ができるように、ベッドのすぐ横にマイクとインターフェースが置いてあって(笑)。始めると、決めたところまでやるまでは終われないタイプなんですよ」

ーいま、欲しい機材やプラグインはありますか?

「いまはヘッドフォンが欲しいですね。普段は多くの作業をソニー『MDR-900ST』と『MDR-7506』でしているんですけど、もうちょっとリスニング寄りなものも欲しくて。あとは、スピーカーの下に敷いて、共振を抑えるシートも欲しいです」

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 ネット上やラジオ等ではすでに完成度の高い楽曲を発表していることでも知られる小岩井ことりさん。その作曲過程を探った。

ー作曲はどのように進めますか?

「だいたい歌詞とメロディーをある程度考えて、それをMIDIで打ち込みつつ、コードをつけたりしています。メロディーに合わせて、雰囲気はこんな感じかな~というのを固めていきつつ、参考の音源を聴いてみて、細かい音を真似してみたりとか。メロディーを思いついた時点から、ある程度の完成形が自分の中にあるんです。

 でも、技術班の自分が追いついてなくて、なかなか実現できないこともあったりして。『こういう風にしたい!』という願望を持っている小岩井さんがいるのに、それに対して技術班の自分みたいなのがいて(笑)。そっちが追いついてこないことも多いので、早く思いついたものを実現できるようになったらいいのになあ、って思っています」

ー完成度の高い楽曲を公開しています。どのように作曲を身につけたのでしょう?

「そうですね……もともと家族と遊びで歌ってみたりとか、遊びで気持ちを歌にしながら話したりとか、そんなことをよくしていたんですよ。そのおかげでメロディーを思いつけるのかな、って思っていますね。DAWに触ったのは『Cubase』が初めてなんです。お姉ちゃんの使っていたエレクトーンをMTR(マルチ・トラック・レコーダー)で録音するように、PCに繋いで録音したり、曲のようなものを作っていたことはあったんですけど」

ーどうやったら曲が思いつくのかって思う読者も多いはずです。

「きっと、みんな思いついてるんですよ! たとえば、曲って思いつくんですかね……フン、フン(鼻歌で「曲って思いつくんですかね」を即興でメロディーに)ってやって、これを打ち込んだらメロディーになるんですよ」

ーふだん聴いている音楽から着想を得たりもしますか?

「やっぱりアニメソングやアイドルソングが好きなんですよ!! 特にアイドルマスターシリーズの曲はよく聴いています。明るくて、元気をもらえます。だから、アニメソングに関われたら嬉しいですね。アニメソングやアイドルソングって、結局、ジャンルの幅が広くて、四つ打ち※もあれば、和風なイメージの曲もあれば、メタルもあったり。いろいろなジャンルが楽しめるのも魅力だと思うんですね」

※ダンス・ミュージックなどで、バスドラムなどを1小節に4回等間隔に打ち鳴らすリズムパターンを持つ楽曲。

DTM用にPCまで自作するこだわり性

ーDTMをするっていうのも驚きですが、PC自作までしているとか

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今使っているPCも、ご自身で週刊アスキーを見ながら組まれたとのこと。Core i7-4770K、16GBメモリーのタワーモデルだそう

「はい(笑)。遊ぶために詳しくなっていった部分が大きいですね。最初は『ネトゲがしたかった』んです。でも、手持ちのパソコンではスペックが足りなくて、インストールすらできなくて……。いろいろ調べて、こういうパーツがあるんだ! グラボやHDDやメモリーを足すとこういうことができるんだ! というのを発見しました。結果、だんだんと詳しくなっていって今に至る感じですね」

ーパソコン関連の専門用語もどんどん出てきて驚きました。

「実はメイクやお洋服よりも、機材やDAWのプラグインに興味があるんですよ。女の子同士が集まると『あれが廃盤になったらしいよ?』なんて声が飛び込んでくることがよくあるんですが、まず最初に『機材のことかな?』と思っちゃう。本当は化粧品の話なんですけどね(笑)」

ーDAWは、興味を持ちながらもなかなか手を出せない人が多いと思うんです。そういった方に向けて、何かひとことお願いします!

「うーん、そうですね……思っているより道具を揃えることは難しくないし、入門セットみたいなものでも事足りるし……。それこそ、ヤマハさんが販売しているSteinbergのインターフェースを買えば、Cubaseなんかが付属していますよね。『曲を作る』ということは必ず誰でもできると思うんですよ。ぜひ一度挑戦してみてほしいと思いますね。

 思い描いた曲を、自由に思った通りに作れるようになるまでにはいろんなハードルがあると思います。もちろん私も、そのハードルを超えたいと日々勉強している最中です。でも、曲を作ること自体は、誰でも必ずスタートできるはずです」

 声に対する強い興味からDAWの世界に入り込んだ小岩井ことりさん。「女性声優がDAW」ときいて思い浮かべるより、硬派なDAWに対する探究心を感じられた人も多いのではないだろうか。インタビューの最後には、DAWに対する想いを次のように話してくれた。

小岩井ことりさんオススメのDAW技は「サンプラートラック」

 Cubase Pro 9から導入された新機能。オーディオ素材を専用のトラックに読みこませると、サンプリング素材として扱うことができる専用のトラック。トラックにDJ的なエフェクトを気軽に追加したり、手間のかかる波形編集やエフェクト処理をせずに、ユザーのアイディアを実現できる。

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