[東京 25日 ロイター] - 米国では2015年12月以来、3度の利上げが実施されたが、ドル/円<JPY=EBS>は約10円下落した。主因とみられているのが上がらない米長期金利だ。6月に想定される4度目の利上げが視野に入りながらも「米利上げで円安が進行」というシナリオは今のところ裏目に出ており、日本株の上値を押える要因にもなっている。

<米利上げの度に進む円高>

利上げ開始前、15年12月15日のドル/円は121円半ばだった。2回目の利上げが決定された16年12月14日は117円。3回目の今年3月15日は113円と、利上げする度に水準が切り下がっており、足元では111円半ばで推移している(以下の表参照)。

この間、英国の欧州連合(EU)離脱決定による政治リスクや北朝鮮を巡る地政学リスクの高まりなど、様々な円高要因がドル/円に影響を及ぼしてきたが、あくまで短期的な材料にすぎなかった。中期的にドル/円を圧迫してきた大きな要因とみられているのが、上がらない米長期金利だ。

米10年国債金利<US10YT=RR>の利上げ開始前の水準は2.2%台半ば。今とほぼ同水準だ。昨年11月の米大統領選をきっかけに、米長期金利も上昇に転じたが、それでも上値は今年3月の2.6%にとどまり、「トランプノミクス」への期待感低下もあって、その後低下に転じている。「3%乗せは夢物語」(外資系投信)との声も多い。

日本側の状況が円高方向に振れたわけではない。日銀のマイナス金利政策導入もあって、日本の10年長期金利<JP10YTN=JBTC>は低下。日米金利差も1.96%から2.21%に拡大している。本来ならドル高・円安要因だが、相場の方向は真逆だ。

<潜在成長率と物価>

なぜ米長期金利は上がらないのか──。

要因の1つとみられているのが、米国の潜在成長率の低下だ。金融危機前には約4%とみられていたが、今や「2%程度」(イエレンFRB議長の今年3月の講演)というのが一般的な見方だ。

景気は悪くないものの、以前ほどの成長力はなく、企業や家計の資金需要などが伸びない。そのため、金融緩和で資金は潤沢であっても、マネーは自然と「安全資産」である国債に集まってきて、金利は低下するという構図だ。

米ダウ<.DJI>は利上げ前の水準から、約20%の上昇をみせ、史上最高値を更新している。しかし、「成長期待が乏しいため、企業は資金を投資ではなく自社株買いに使う。一株利益は上がり、株価を後押しするが、経済成長には結び付かない」と三井住友銀行チーフ・マーケット・エコノミストの森谷亨氏は懸念する。

期待ほど上がらない物価も一因だ。「鉄鋼など世界的な供給過剰体制があり、グローバル化が進展した今、インフレが起きにくくなっている」(三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏)という。「物価が上がらなければ、中央銀行が利上げを急ぐ必要はなくなる」、市場がそう考えれば金利は上がりにくくなる。

24日に発表された5月2─3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨も、上がらない物価への警戒感がにじみ出る内容となった。

<日本株は相対的に不利に>

インフレが起きず、金利が上がらないことは必ずしも悪いわけではない。金融緩和環境を長く続けることができ、景気を後押しするからだ。しかし、日本株にとっては、米金利が上がらず円高が進んでしまうことは、他の資産との比較で相対的に魅力を低下させてしまう。

利上げ開始から米ダウが2割上昇したのに対し、日経平均<.N225>は約6%の上昇。10円の円高進行にもかかわらず、株価が上昇したことは、日本企業の円高耐性がついてきていることを示しているとはいえ、やはり円高は日本株の重しだ。

2018年3月期の東証1部企業の想定為替レートは、1ドル108─109円とみられており、前期とほぼ同じ。直近の純利益予想は2.7%増(みずほ証券調べ、19日時点)だが、105円付近まで円高が進めば増益も怪しくなる。

米長期金利が上がらず、円安が進まなければ、日本のインフレも進みにくい。インフレが進まなければ、日銀が現在の金融緩和政策を続ける可能性が大きくなり、イールドカーブ・コントロール政策で長期金利がゼロ%付近に押さえつけられる展開が続きそうだ。

パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は「日本は高齢化で購買力が低下し物価が上がりにくくなっている。円安による輸入物価上昇くらいしかデフレ脱却ルートがなくなりつつあるが、米長期金利が上がりそうにもなく、それも期待しにくい。長期的にみれば、株式などリスク資産よりも債券が有利な展開が続くのではないか」とみている。

(伊賀大記 編集:石田仁志)