伸び悩む外食産業にあって、5期連続で増収増益を記録しているロイヤルホールディングス。その実績は、2010年に社長に就任した菊地唯夫・現会長CEOによるところが大きい。日本債券信用銀行からスタートした仕事人人生やロイヤルの持続的な成長経営について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 深澤 献)

“多産多死型”の外食産業でも成長できるロイヤル式多角化経営Photo by Yoshihisa Wada

従業員と社長が一緒に育つ経営

――「ステークホルダーとの関係性を第一に」など、明確なテーマを最初に据えて経営に取り組むというのが、菊地さんの経営スタイルですね。これ、“言うは易し”で、その姿勢を徹底するというのも、理論を忠実に実践するというのも決して簡単ではない。それをサラリとやってのけているところがすごいと感じました。

菊地 最初からそうだったわけではないですよ。社長に就任したときは、何をすればよいのか、本当にノーアイデアでした。

 ただ、従業員向け決算説明会や経営塾を通して、社員に「毎年1円でもよいから増収増益を。それが株主も従業員もハッピーになる原点だ」と言い始めたのも、この連載の第3回で述べましたが、社長就任から1年後にあった東日本大震災での炊き出し支援がきっかけだったと思います。

 支援に向かった従業員たちが、現地で温かい料理を提供するだけでなく、少しでも早くお渡しできるように列のつくり方を考えたり、幼い子どもを抱いている被災者の方にはプレートを持ち運ぶ担当者を決めるなど、そこには調理と接客のプロの神髄がありました。

 そんな素晴らしいプロが、仕事に見合う待遇を得ているだろうかと思ったこと。それがステークホルダーとの関係性を強め、豊かにする経営というアイデアにつながっていったのだと思います。

――「成長こそがステークホルダー間の利害対立を生まない」ともおっしゃっている。

菊地 成長が鈍っているから株主や従業員などステークホルダー間の利害対立が問題として浮かび上がっているのだと思います。成長が続いていれば、誰もが利益の分配を享受できるのでステークホルダー間の利害対立は起きません。

 成長が鈍化している今だからこそ、「利害対立を起こさない経営」が大きなテーマになるのだと思いますし、経営の難しさでもあるのだと思います。

――社員の皆さんへの決算説明会や経営塾を通じて、ご自身も経営者として深まっていくという様子も窺えました。

菊地 それはもちろん、あります。経営塾の受講生から寄せられる質問、疑問を考えるだけでも経営についての考え方が深化していくというか学びになっています。それを少しずつ繰り返していくことで、自問自答も多くなり、「今、考えていることは経営理念で言えば、こういうことかな」などと思いが鮮明になってくるのです。

 おそらく最初から分かっていたわけではなく、経営に大切なことや、経営のスタイルみたいなものがジワジワと積み重なっていく。あるときに突然、「これが経営の要諦だ!」などとひらめくことはないです。そういう天才型の経営者もいるかもしれませんが、私はジワジワと積み重ねるタイプですね。

――その経営者としての“歩み感”というべきものが、社員の皆さんにも「一緒に育つ」という感触につながっているのでしょうね。

菊地 そうだと嬉しいですね。連載でもちょっと述べましたが、疑問を持って一緒に考えていくのはすごく大事なことだと思います。疑問を持たないと人間は進化しないし、目の前の仕事を漫然とこなすよりも、常に疑問を持つことによって人間は初めて次のステップにいけると思います。

 逆に言えば、「なぜ自分はそういう疑問を持つのだろう」と知ること自体が、ステップアップにつながると思うのです。この双方向、インタラクティブなアプローチは、仕事人として大事なプロセスだと思います。

――失礼ながら、学校の先生になられたらよかったのにとも感じます。

菊地 僕もね、たまに仕事を間違えたのではないかと言われます(笑)。今は大学で教えたりもしているのです。年間に5つか6つぐらい。定期的に講義しているのもあれば、アドホックで呼ばれてお話しするケースもあります。