オフィス環境の重要性が議論されるなか、室内の空気がきれいかどうかについては、意外なほど重視されていない。筆者の研究によって、オフィス内の空気の質が、生産性に大きな影響を与えることが示された。


 オフィスの空気の質について、そして、それが従業員と生産性にどれほど影響を及ぼすかについて、あなたはどれくらい頻繁に考えているだろうか。おそらく、あまり考えていないのではないか。

 ごく一般的な基準が満たされている限り、空気の質は重要な問題でないと思われがちだ。だが、この基準があまり高くないのだ。たとえば、室内換気を規定する国際共通基準の1つ、「許容室内空気質のための換気(Ventilation for Acceptable Indoor Quality)」は、“健康に良い”空気の質を確保しようとすらしていない。

 1970年代の米国では、省エネ活動の一環として、建物の気密性を高めて換気率を低くする取り組みが実践された。そのため、屋内に新鮮な空気を十分に取り込む構造は建築物に求められなかった。その結果、はからずも屋内に汚染物質がたまることになり、「シックビルディング症候群」として知られる目の痛みや頭痛、せき、胸苦しさといった一連の症候が出現した。この問題は、いまなお続いている。

 相次ぐ研究発表によれば、換気量、すなわち屋外から取り込まれる新鮮な空気の量は、健康の重要な決定要因だ。通気性がよければ、シックビルディング症候群が改善し、常習的欠席が減るうえ、伝染病の感染率も低下することが実証されている。

 このように空気の質を健康に結び付ける諸研究を踏まえて、我々は通気性が改善されれば、労働生産性の指標の1つ、認知機能にプラス作用があるかどうかを確かめたいと考えた。はたして、空気の質が改善すれば、情報を処理し、戦略的決定をし、そして危機に対応するという仕事能力に影響があるだろうか。