2017年、Nokiaブランドがスマートフォンに戻ってきた。だが、かつて携帯電話市場を独占したNokiaは、ブランドをライセンスするという形式を選んだ。Nokiaのブランド戦略はどうなっているのか? 事業の柱であるネットワークインフラとの関係は? Nokia Technologiesの最高マーケティング責任者(CMO)、Rob Le Bras-Brown氏に話を聞いた。

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MWCでのNokiaブース。すっかりエンタープライズ事業のみというイメージになっていたNokiaだが、コンシューマー向けのヘルスケア製品をリリースするなど、ブースはなかなかの盛況だった

今のNokiaは、携帯電話はHMDにライセンスし
ヘルスケアデバイスは自社でコンシューマーに提供している

 あらためてNokiaの携帯電話事業の歴史についてまとめると、周知の通り2014年にMicrosoftにモバイル事業を売却し、携帯電話から撤退した。Microsoftはその後、2016年にNokiaより取得したフィーチャーフォン事業をHMD Globalなどのグループに売却している。その間、2014年末には「Nokia N1」というAndroidタブレットを発表している。NokiaはMicrosoftにモバイル事業を売却時に合意した条件により、2年間はモバイル端末市場に再参入できないことになっていが、その期限も過ぎた。

 携帯電話事業に再参入するにあたって、NokiaはHMD Globalに独占ライセンスするという形式をとる。HMD Globalは2016年末にフィーチャーフォンを発表、2017年頭にAndroidを採用したスマートフォン「Nokia 6」を中国で限定発売している。

 一方、携帯電話を始め、VRの「OZO」やデジタルヘルスケアなどの端末、研究開発をNokia内で受け持つのがNokia Technologiesだ。Le Bras-Brown氏はHP出身で、現在米カリフォルニア州にあるNokia Techonologiesの本拠地でマーケティングを統括している。

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今回話を聞いたLe Bras-Brown氏

――携帯電話分野に再参入するにあたって、Nokiaは自社ではなく、ライセンスという形式をとった。

Le Bras-Brown氏(以下、同) 2014年にMicrosoftに売却した際、携帯電話事業から撤退した。Microsoftとの合意の一部として、Nokiaブランドでフィーチャーフォンを10年、スマートフォンを2年ライセンスすることになったが、Rajeev(CEOのRajeev Suri氏)はNokiaが今後携帯電話を製造することはないという点を明確にしていた。

 一方で、市場には大きなチャンスがあった。そこで注意深くパートナーを選ぶことにした。

――HMD Globalとの関係は?

 HMDとは明確な契約を交わしている。マーケティングの素材やデザインについては、最終的にNokiaが意見を言うことができる。関係はとてもポジティブなもので、Pekka(HMD GlobalのCMO、Pekka Rantala氏)とも密で良好な関係を構築している。HMD GlobalのNokiaブランド製品であろうとNokiaの製品であろうと、コンシューマーにとっては同じNokiaだ。だから、HMD Globalとは同じブランドの目的や願いを共有している。

 ブランド戦略としては、目的意識が明確なミレニアル世代(21世紀に成人になったデジタルネイティブ層)をターゲットにする。この点でHMD Globalと合意しており、HMD Globalは「Unite」(結びつける)というテーマに基づいたキャンペーンを制作している。

 HMD GlobalはNokiaブランドの携帯電話を、製品の仕様や速度といったスペックで売ろうと思っていない。スペックではなく、目的、人間性、人をユナイトするというコンセプトを押し出して訴求する狙いで、これはNokiaで私がやっていることも似ている。

Nokiaはプロモーションと製品品質の面で
HMDに要求をしている

――コラボレーションは実際にはどのようなものか? たとえば、発売されている端末はハイエンドではなく、ミッドレンジを狙っているように見えるが、価格帯はどちらが決定しているのか?

 HMD GlobalはフルでNokiaブランドのビジネスをコントロールする。協業範囲はマーケティングとデザインだ。我々はHMD Globalに対し、製品の品質、顧客サポートなどで高いレベルを要求する。Nokiaと同じレベルを求めており、それに応えてくれている。

 ロードマップはHMD Globalが作成している。Nokiaはそれぞれの価格帯で品質、耐久性、信頼性などのしきい値を求めている。たとえば「Nokia 6」は単一のアルミニウムから45分かけてケースを作成している。全体のプロセスは6時間。画面は(Corning社の)Gorilla Glassでカバーしている。299ユーロの価格帯でこの品質を実現できているところは、ほかにはないのではないか。

 価格を見るとミッドレンジだが、安価なスマートフォンだからと言って品質、耐久性が劣るということではない。HMD Globalのビジョンは、Androidエコシステムにある素晴らしい技術に、美しく高品質な端末からアクセスできるようにすることだ。

――一方で、ヘルスケアデバイスではフランスのWithingsを買収し、今後はNokiaブランドを冠して展開する。コンシューマー分野でのNokiaブランドの戦略は?

 Nokiaブランドの製品を再びコンシューマーの手に届ける。HMD Globalとの提携を通じた携帯電話はその一部で、そのほかにWithingsのデジタルヘルスケアがある。Nokiaブランドにするという決定は、デジタルヘルスケアでもNokiaブランドの認知は高いことがわかったからだ。

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Nokiaは活動量計やWi-Fiで繋がる体重計などで話題を呼んでいたフランスの新興メーカー、Withingsを買収して、ヘルスケアデバイスに参入した。その後、ブランドをNokiaに統一している

 Nokia Techonologiesの目標は、人類を結びつける技術を設計すること。人と人を近づけること。血圧測定ができるデジタルヘルスデバイス、スマートウォッチのNokia Watch、OZO、これらの技術はすべて人と人の距離を縮めるためのものだ。

――MWCの話題をさらった「Nokia 3310」はどちらのアイディア?

 HMD Globalのアイディアだ(笑)。ブランドに”Fun(面白さ)”があっていいじゃないか、という考えがある。

 Microsoftの時代を含め、Nokiaブランドはフィーチャーフォン事業から撤退したことはない。(Nokia 3310のリメークは)以前からあったアイディアと聞いているが、今回スマートフォンとともにローンチすることにしたようだ。

 Nokiaのフィーチャーフォンが搭載していたNokia Tune(Nokia独自の着信音)は、みんなを笑顔にする。人々は音でもブランドを認識している。オリジナルのNokia 3310は1990年後半にローンチし、累計1億2000万台を出荷したアイコン的デバイスだ。Arto(HMD GlobalのCEO、Arto Nummela氏)は(ローンチの場で)”デジタルデトックス”といったが、シンプルにコネクトできる。古いことが新しさになっている。

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Nokiaの名機「Nokia 3310」を復活させたことはMWC開催時の大きな話題となった

 誰もが手にすると微笑みたくなる端末だと思うが、Nokia 3310が発表された日はHuawei、LGなど複数のメーカーが新機種を発表する中で、BBCではNokia 3310発表のニュースが最もアクセスされている記事となった。

 プレスカンファレンスも活気を感じた。YouTubeで360度動画として配信したが、ピーク時には3万人弱の人がライブで見ていた。VRでのコンテンツ消費は25万人だった。VRはニッチではないと確信した。OZOにはグッドニュースだ。

 だが、マーケッターとしてこの数字(ビューの数)以上に気にしているのはエンゲージ。コメントがとてもポジティブで、Nokiaブランドに対して好意的、もしくは中立であり、否定的な人はいないことを確認できた。これは素晴らしい資産と言える。

――成長国市場ではここ数年、Nokiaは携帯電話市場から姿を消したといって良いが、何か学びはあったか? Symbianのオープン化、Android/Windows Phone/MeeGoの選択などをどう振り返る?

 まだ入社間もないので過去についてのコメントは控えるが、心がけているのはNokiaらしさの実現。これを私はマーケティングの面で進めていく。

VRや活動量計など、大量のデータを扱うデバイスで
メインのネットワーク事業に貢献していく

――この十年で世代が代わっており、Nokiaを知らない人もいる。デジタルネイティブにどのように訴求するのか?

 デジタルヘルスケア製品については、ローンチに成功しており、活動を追跡するアクティビティートラッカー、体重計などを購入しているのは若い人だ。

――OZO、ヘルスケア、HMD Global経由での携帯電話以外に、コンシューマー分野でどのような製品を計画している?

 デジタルヘルスケアでは各製品カテゴリでしっかりしたロードマップを元に進めている。今後の具体的な計画については話せないが、Nokiaはイノベーションの”発電所”的な存在を目指す。Alcatel-Lucent買収によりBell Labs(”ベル研”、買収後は「Nokia Bell Labs」となった)を獲得した。実際、2016年は1万3000件以上の特許申請を行った。

――これらコンシューマーの取り組みは、メインの事業であるネットワークにどのように貢献するのか?

 データと接続性の2つで貢献する。

 我々のヘルスケア製品は、専用のアプリを通じてデータをNokia Networksに送っている。VRカメラも同じだ。デバイスの利用が進めばたくさんのデータが生成され、これを活用できる。

 たとえばこれから5年の間に、コンシューマーが消費するすべてのコンテンツのうち20%がVRになると予想されている。データの消費量は5、6倍となる予想だが、これらはすべてネットワークを必要とする。ネットワーク事業にとっては魅力的な価値提案となる。

 商用化が近づいている5Gはとてもエキサイティングな技術だ。5Gはゲームを変えるだろう。5Gなら、OZOで録音した画像を遅延なくストリームできる。Bell Labsでは、この分野の技術についても研究などの取り組みを進めている。