終わりの見えない不況が続くIT業界で、次世代の商機と目される「クラウド・コンピューティング」の輪郭が、いよいよ鮮明に見え始めた。現在、業界は急速な変革を迫られている。そんな風雲急を告げるIT市場で、世界最大のIT企業、ヒューレット・パッカード(HP)は、近年積極的な企業買収を行なってきた。特にITサービス分野で世界第2位となるElectronic Data Systems(EDS)の買収は、HPのクラウド化戦略において重要な意味を持っている。EDSの統合を昨年8月に完了させた日本HPの小出伸一社長は、2010年以降、どのような成長戦略を考えているのだろうか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子、撮影/宇佐見利明)

不況が日本IT市場を直撃!
それでも景気循環は成長に必須

――景気低迷が続いた2009年は、IT業界にとってどのような年だったか?

小出伸一
こいで・しんいち/日本ヒューレット・パッカード代表取締役 社長執行役員。1981年(昭56)青山学院大学経済学部卒、同年日本IBM入社。03年取締役金融システム事業部長。05年日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)常務、06年副社長兼最高執行責任者(COO)。07年日本HP社長。

 昨年のIT業界は、この数十年間で最も厳しい1年間だった。IT成熟国である日本においては、「ITの新規投資を一度に止める」というダイナミックな経営判断をする企業も出始め、厳しさがより顕著だったように思う。

 ただ、ITは今までの効率化や生産性の向上を行なうシステムとしての役割だけでなく、営業戦略や経営を支えるツールへと変化している。そのため、すべての投資が止まったというわけではない。

 昨年、IT投資をスローダウンさせた企業は、今年から再来年にかけて、投資を再開せざるを得ないはずだ。「ITバブル」といわれた時代のように、対前年比数十%もの成長を期待するつもりはないが、IT業界の業績は今年~来年にかけて昨年よりも上向くだろう。

――厳しい環境下、日本HPの昨年の経営状況はどうだったか?

 やはり厳しい1年だった。しかし一方で、2010年~11年に向けて新たな準備を進めることができた1年だったと総括している。

 資本主義経済の良いところは、数年に1度危機的な状況に陥り、その後リフレッシュを繰り返すことだと考えている。ITも同じで、ムダや非効率なものが一度リフレッシュされることで、より効率性の高いサービスや最新技術にリニューアルされる機運が高まる。そうした意味では、この不況も正しい循環の1つである。チャンスに乗れれば、IT業界も再び成長できるのではないか。