今、思えば、当時の採用予算はかなり少なく、現在の10分の1程度の予算であり、お世辞にも採用に力を入れていく、とは言えない金額でした。

 しかし、他社の採用状況がわからない私には、それがどれほど小さな予算であるか知るよしもなく、予算に合わせて打ち手を考えるしかありません。その予算内では、大手就活サイトに広告を出すこともできず、就職説明会用のパンフレットもエクセルで手製したものを社内コピー機で作成するような状態でした。

 とはいえ、どうしても費用を割かなくてはいけないのが、学生との接点となる就職説明会です。合同説明会に参加し、企業ブースを出展する。このためになけなしの予算から費用を捻出するのは簡単なことではありませんでしたが、企業の採用活動としては多くの企業が当たり前に実践していることです。

 私が着任した当時、このような活動に対しても何も疑問を感じることなく、費用的に厳しいという思いはありながらも、ただ実行していました。

 ところが、ある時の合同説明会でのこと。他社の大手製菓メーカー(仮にA社としましょう)とブースが近くなり、担当者の方へ挨拶がてら、採用状況を伺ったのですが、その方が何気なく発した一言に、私は大きな衝撃を受けました。

私 「御社では年間何名くらいの方がエントリーされるのですか?」

A社担当 「そうですねえ……だいたい3万人くらいですね」

私 「えっ……」

 当時の三幸製菓のエントリーは300。なんとケタが2つも違ったのです。

 この時になって初めて、同業他社との差を痛感させられました。大手他社と伍して勝っていくために採用に力を入れよう、と思っていたところで、そもそも「学生の募集数でケタ違いの差がある」と知り、彼我の差を感じさせられたのです。

 手持ちの資源は少ない、大手との認知度の差も激しく開いている、そこからどうやって戦っていけばいいのか。このことを日夜考え続けました。

 日々考えていくうちに、ある時このように思ったのです。「学生に知られていないことは必ずしもデメリットではない。むしろ、全く知られていないということは、下手にネガティブイメージが持たれているよりもよっぽどいいことなのではないだろうか」

 無色透明の状態であることは、むしろ採用活動において強みである、という発想に転換したのです。ここから、三幸製菓が「学生に知られていないこと」を逆手にとった採用活動を行っていくことになりました。