[ベルリン 29日 ロイター] - ドイツのメルケル首相はしばしば重要な政治的問題について慎重な言い回しをするが、戦後秩序の変化を巡る週末の発言はいつになく率直だった。トランプ米大統領への不満が高まる一方、フランスのマクロン新大統領と欧州改革で協調する決意を固め、ドイツ国内政治への配慮も高めた結果、メルケル氏が自らの立場をはっきりさせたと複数のドイツ政府高官や欧州当局者は話している。

メルケル氏は28日、先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)後にミュンヘンで演説し、「他国に完全に頼ることができる時代はある程度終わった。私はこの数日でそれを経験した。われわれ欧州人は自らの運命を自分たちの手に握らねばならない。欧州人として、自らの運命のために闘う必要があると知るべきだ」などと語った。

同氏は29日にも、前日の発言における多くの要点部分を繰り返し、こうした見解を意図的に発信したことが明らかになった。

では同氏がどうしてこのようなメッセージを送るに至ったのか。ロイターがドイツ政府や欧州連合(EU)の関係者に取材した結果、次のようないくつかの要素が影響した可能性がある。

<選挙対策>

9月24日のドイツ総選挙に関する世論調査では、メルケル氏率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)が、最大のライバルと目される社会民主党(SPD)に現在支持率で2桁の大きなリードを奪っている。しかしSPDなどは今後反トランプ氏を掲げ、それによってメルケル氏がトランプ氏に甘いと攻撃してきてもおかしくない。SPDは既に、トランプ氏がドイツに強く求めている国防支出増額などに反対すると表明した。

これに対してメルケル氏は、政治的リスクを覚悟して国防支出増額を支持。ただドイツがトランプ氏から距離を置く必要がある可能性を鮮明にした上で、トランプ氏の要求ではなく、欧州が米国から独立的な防衛能力を備えるために国防支出を増やすという別の論理を持ち出し、有権者を味方につけようとしている。

またメルケル氏はこれまで、自由貿易や温暖化対策、移民などの主要政策課題でトランプ政権を国際的な合意形成に加わるよう導くやり方を採用してきたが、今回のG7サミットでそうした戦略がうまくいかない恐れが露呈した。7月のハンブルクにおける20カ国・地域(G20)サミット開催国として、会議が不調に終わった場合に批判を浴びて、選挙に不利となるリスクを避けるため、今ここで米国の非妥協的態度を改めて指摘した面もある。

<盟友登場>

複数のドイツ政府高官によると、マクロン氏がフランス大統領選に勝利する前の段階であれば、メルケル氏はあのような発言はしなかったとみられる。

親欧州で国際協調重視という同じ考えを持つマクロン氏の登場で、メルケル氏は国防や治安対策、移民、ユーロ圏改革といった問題に取り組んでいく上で、信頼できるパートナーを得ることができた。ドイツ政府高官の話では、G7サミットでも独仏首脳の関係は非常に良かったという。

メルケル氏は、マクロン氏が打ち出しているいくつかのユーロ圏改革構想について懐疑的なCDU内の保守派に対しても、妥協に備えるべきだと訴え掛けている。あるドイツ政府高官は「メルケル氏は、トランプ政権が出現した機会を利用して、より親欧州的な政策を形成しつつある」と話した。

<トランプ氏への不満>

もとよりメルケル氏のミュンヘンにおける発言は、トランプ氏への不満が募ったことで生まれた。複数の当局者によると、今回のトランプ氏の欧州初訪問はドイツ側を困惑させる結果になった。

発端は、トランプ氏がブリュッセルにおけるEU高官との非公式会談で、ドイツの対米貿易黒字問題を蒸し返して批判したことだった。さらにトランプ氏が、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で同盟国に応分の国防支出負担を繰り返し求め、集団安全保障条項への支持を明確に示さなかったことで、ドイツのいら立ちが一段と増大した。

さらにG7サミットでは、温暖化対策や移民問題で米国と他の6カ国の意見が対立した。メルケル氏は温暖化対策を巡る米国との議論に「とても不満」と振り返った。

トランプ氏は今週、温暖化対策の新たな枠組みである「パリ協定」に残留するか離脱するか決めるとしている。複数の当局者は、メルケル氏のミュンヘンにおける発言によって、トランプ氏に自らの決定がドイツや同盟国との関係に重大な影響を及ぼすのだと思い起こしてくれるのではないか、と期待している。

(Noah Barkin記者)