[パリ 29日 ロイター] - 今月初飛行に成功したロシアの新型ジェット旅客機は、米ボーイングと欧州のエアバスによる2大支配に挑むには苦戦を強いられるかもしれないが、未来のジェット旅客機に大変革をもたらす可能性がある。

ロシアの統一航空機製造会社(UAC)が開発した単通路型旅客機「MS21」は、高コストのオートクレーブと呼ばれる複合材硬化炉を使わず、軽量の炭素繊維複合材で造られた主翼で飛行する初の旅客機だ。

同機は、複合材を用いた航空機建造において、より安価で早い方法を探し求める欧米ライバルたちがすでに検討しているテクノロジーの試金石となると、航空業界の幹部やサプライヤーらは指摘する。

ボーイングは次期大型旅客機「777X」向けの主翼を製造するのに世界最大のオートクレーブを建設したが、最もよく売れている737型小型機と大型機の中間に位置づけされる新型中型機(NMA)の選択肢を模索している。

「NMAの一部がオートクレーブを使用せずに製造される可能性は十分ある」と、同プロジェクトに詳しい人物はこう話した。

ボーイングの広報担当者は中型機の市場機会を研究中だとし、詳しくは語らなかった。

関係筋によると、NMAに使用するテクノロジーとしてボーイングが何を選択するかは、2030年以降に登場が見込まれ、今世紀後半になっても残るであろう次世代の737型機の基礎を築くものになるという。

ボーイングはまだ明らかにしていないが、業界筋によると、戦略のなかには座席数160─210席のジェット旅客機3機が含まれ、NMA開発で使われるのとほぼ同じ製造システムで建造されるという。

どちらも30年にわたり建造され、さらに20─30年間就航する可能性が高い。したがって、現在のテクノロジーの選択が今後75年間という壮大な年月の旅客機建造の鍵を握ることになる。

ボーイングの中型ジェット旅客機への対抗策を検討するエアバスも、このテクノロジーについて注視していると、CNNが先月報じた。 エアバスは同報道についてコメントしなかった。

<極めて重大な決断>

航空業界では1970年代から複合材が使用されているが、過去10年で特に大きな進歩を遂げた。ボーイング787型機(ドリームライナー)とエアバスA350型機が就航を開始し、大部分の金属部品が軽量の炭素繊維に代わり、燃料費を軽減できるようになった。

長距離ジェット旅客機では、燃料費が安く済めば、たとえ航空機の建造費が高くついても、それは価値あることだ。他方、NMAや未来の737型機のような、燃料が少なくて済む短距離航空機の場合、建造費を安く抑える方法を見いだすことがより重要になる。また、オートクレーブの使用を回避することもその一助となり得る。

オートクレーブを必要としないテクノロジーに賭けるのは、航空宇宙産業への比重を高めつつある米ヘクセル<HXL.N>やベルギーのソルベイ<SOLB.BR>、日本の東レ<3402.T>など、複合材を提供するサプライヤーにとっても大きなギャンブルだ。

最近パリで開催された見本市では、ヘクセルとソルベイはオートクレーブを使用しない部品の試作品を展示。量産供給に向け準備をしているという。

「オートクレーブを使用せずに、いかに早く部品を量産できるかは、航空産業における大きな課題の1つだ」とヘクセルのビジネス開発マネジャー、ヘンリ・ジラルディ氏は語る。ただし、旅客機メーカーは性能の低下は受け入れないだろうと付け加えた。

ボーイングのドリームライナーとエアバスのA350型機には、樹脂を含浸させた「プリプレグ」と呼ばれる炭素繊維が使われている。機体の部品として使われ、巨大なオートクレーブで加工される。

専門家によると、こうした部品の製造コストは、アルミニウムと比べ、30─40%程度高いという。

一方、オートクレーブを使わない新しい技術では炭素繊維織物基材を積層し、真空圧で樹脂を注入する。その後、加圧せずオーブン内で硬化させるこのプロセスは金属よりも25%のコスト増が見込まれるため、最終的には、この増加分を大幅に減らすか、なくす必要がある。

造船会社や風力発電メーカーは何年もこの技術を使用している。航空業界でも、主要ではない部分の部品では同技術が使われていた。

カナダのボンバルディアが自社の「Cシリーズ」で同技術を一部使用していたが、ロシアの新型機が主翼で採用するまで飛行に必要不可欠な部品で使われることは珍しかった。

ロシア製のMS21は、まだ大量受注はないものの、欧米大手が最近アップグレードしたモデルにとらわれず未来の航空機を考え始めたこの時期において、最新のトレンドの波に乗っていると言える。

「これ(MS21)は素晴らしいテクノロジーを体現している。実際に主要な構造部品として使われているのだから」と、同機に材料を提供しているソルベイ・コンポジットマテリアルズで戦略プロジェクトのグローバルディレクターを務めるフランク・ニキッシュ氏は語った。

同氏は、MS21の主翼がボーイング737型機やエアバスA320型機の大きさに匹敵することに注目している。

とはいえ、コストを下げるには一段の努力を要する。また、複合材料メーカーでは、航空機メーカーが考える建造ペースをサポートする態勢がまだ整っていない。

業界筋によると、ボーイングは1カ月あたり20─30機の中型機建造が予想されている。これは同社787型機の約2倍のペースにあたる。また、737型機やA320型機の後継機は、1カ月あたりの建造数が60─80機近くに設定される可能性が高いという。

提案されているボーイングの新たな中型機は、広く期待されている複合材を使いながら、以前よりもスピードアップした生産体制に業界が移行できるかどうかの試金石になると、ニキッシュ氏は指摘する。

だが、航空機メーカーによる厳しいコスト、性能、生産目標は、3方面での進展を必要とする。それは、より安価な材料、オートメーションの拡大、新技術を確実に機能させるためのコンピューターシミュレーションである。

「プリプレグ技術は、日々の知識に基づいて40年進化を続けてきた。だが新たなプロセスを導入するには、われわれはまずデータバンクを駆使して、それを予測できなければならない」とヘクセルのジラルディ氏は述べた。

(Tim Hepher記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)