年上部下に足を引っ張られる上司たち

 終身雇用が前提だった1980年代までは、いわゆる出世ラインから外れてしまった社員にも、出向先やポストが用意されていました。しかし、今や出世に縁がない「万年非管理職タイプ」の居場所はすっかりなくなってしまいました。

 たとえば、通信会社で営業課長を務める40歳の年下上司は、こんな悩みを抱えています。

「2歳年上の部下ですが、重要案件のメールについては、私にもCCするように何度も促しているのに、それができません。『送った』とウソをついたり、注意しても、『今度から気をつけます』と言い訳ばかりです。

  たぶん、文章の不備やミスを指摘されるのがイヤなんだと思いますが、本当に手を焼いています。面と向かって文句を言ってくるならば対応のしようもあるのですが、のらりくらりと逃げ回るばかりで……」

 一方で、若手の指導役などを任され、モチベーションは十分ながらも、逆に上司気分が抜けず、上司の意図とは異なる指示を出してしまったりする年上部下もいます。

「定年退職後、再雇用された方が、私の部下になりました。営業担当者の相談役を任せることになり、課長である私と机を並べています。仕事に対しては熱心でありがたいのですが、根性論が多く、実際のノウハウ指導がおろそかになっています。遠回しに注意しても、『そうか?』と聞き流され、教わる相手も閉口しています」

年上部下の扱いに戸惑うのは当然

 これまで私は、『上司力トレーニング』『女性社員のトリセツ』(ダイヤモンド社)といった書籍を通して、上司がどのようなリーダーシップを発揮すれば、部下を動機づけして育て、組織に貢献する存在へと導けるのか、現場の上司の方々の声を聞きながら考察を続けてきました。

 当然、新入社員をはじめ、若手社員、女性社員といった部下は、読者にあたる上司のみなさんより人生経験の浅い年下が大半を占めることが前提でした。つまり、年の功で上司部下の関係が成立しやすかったのです。

 しかし、年上の部下は上司より人生経験を重ねてきた年長者。年の功により上下関係が成立しません。

 言葉にすれば当たり前の現実なのですが、この当たり前の現実に対峙することは、当たり前にはいきません。

「年上部下」というのは、これまでの職場に存在していなかった、新たな存在です。あなた自身も、年上部下自身も、「年上部下」の身の処し方やモチベーションの高め方などについて、知識も経験もありません。

 これまで、管理職となった人たちは部下への接し方や仕事のしかたについて、先輩管理職をお手本にしたり、反面教師にしたりすればよかったのですが、「年上部下」の扱いについては、どこにもセオリーがないのです。

 あなたが年上部下の扱いに困り、ぎくしゃくした関係になってしまうのも、しかたないといえるでしょう。