ああ、そうか、こういう場所に
アントレプレナーがいるのだ

 そのような現実がある一方で、僕がこの村で見たのは、貧困に苦しむだけの人々ではなかった。この村はアカ族の中でも有数の発展を遂げ、物乞いから転じて経済的に自立した数少ない村だったのだ。

 僕らをもてなす宴で、僕はこの村の村長と出会った。彼は僕が仕事をしてきた起業家たちと同じ風貌をしていた。力強く語り、敬愛を込めた眼差しで迎えられる。聞けば、彼はこの村の発展にかけずり回った男だという。

 問題と直面しているこんな場所に起業家はいるのだ、そう思ったことをよく覚えている。もし、僕が彼らの言葉を話せたなら、いくらかでも彼らのビジネスに貢献できただろう、と思うと悔しかった。

「茶色い髪」の少女<br />――ラオス奥地で突きつけられた「貧困」の現実村人たちにあたたかいまなざしで迎えられる村長(右から2人目)

  あれだけもてなされたにもかかわらず、ほんのわずかの、必要最低限の礼しかせずに帰ってきた。資金的な支援をしようと思えば、できた。でも、それが良いことかどうかわからなかった。それは、僕がすべきことなのか、と。
  難しく考えすぎるのは僕の悪い癖だが、この2年の旅で答えを出さねばならないこと、僕が知りたかったのは、働くことを通じて、彼らのような人々にどう貢献できるか、だった。ムアンシンへ向かう車の中、僕はまだ立ちふさがるいくつもの壁に圧倒されていた。
  その疑問が拭えぬまま、旅は進む。次に訪れたのは、カンボジア。そこでとてつもない可能性を秘めた女性起業家と出会い、僕の常識は打ち砕かれることになる。

加藤徹生(かとう・てつお)
1980年大阪市生まれ。
経営コンサルタント/日中市民社会ネットワーク・フェロー。
学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。
2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という本書の着想を手に入れた。
twitter : @tetsuo_kato
URL : http://www.nomadlabs.jp/ (講演などのお問い合わせはこちらから)

 

【本編のご案内】
『辺境から世界を変える――ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」』

「茶色い髪」の少女<br />――ラオス奥地で突きつけられた「貧困」の現実

「何もないからこそ、力もアイデアもわくんだ!」(井上英之氏)
先進国の課題解決のヒントは、現地で過酷な問題ー貧困や水不足、教育などーに直面している「当事者」と、彼らが創造力を発揮する仕組みを提供するため国境を越えて活躍する社会企業家たちが持っている。アジアの社会起業家の活躍を通して、新しい途上国像を浮き彫りにする1冊。

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