僕が彼女の事業の真価を理解したのは、何人かのスタッフに「何のために働いているの?」と尋ねた時だった。

「女性のために働けるからよ」

 みな、口を揃えたように答えたのだ。僕は何度も聞き返した。「他に給料がいい仕事もあるけど、どうして?」。彼女たちは言う。「でも、こっちがいいのよ」と。言葉だけではなく、彼女らの立ち振る舞いから感じられる「仕事への誇り」のようなものを感じ、僕はいよいよ覚悟を決めた。

英語で仕事をする、ということ

 僕は、拙い英語で事業の再構築の提案をし、ボランティアでいいから仕事をさせてくれ、と頼み込んだ。

 ただ、英語で仕事をした経験もなく、途上国で生活をしたことのない僕には闇夜を手探りで進むような未知の世界だった。「いいわよ」とチャンタは軽く答えた。もちろん、ボランティアだから、という理由も大きかっただろう。ただ、信頼を得るまでには時間がかかった。コンサルティングという仕事は、事業の生き死に踏み込まねばならない。意見を聞くにしろ、聞き流すにしろ、信頼関係は欠かせない。

 自分でも驚いたのだが、英語での仕事はわりとうまくいった。「日本人の発音はわかりにくいよね」なんて、何度も言われたし、スペルミスもよく指摘された。安宿に戻って、ひとり悔しい思いをしたことも一度や二度ではない。

 だけど、ビジネスはどこにいってもビジネスだ。本質は顧客の役に立つこと、そしてその結果として、収益を上げること。言葉だって、顧客はClientだし、価値はValue、売上はSales、費用はCost。日本でも同じだ。会計用語も戦略用語はほとんど世界共通。”PL”なんて難しそうな会計用語があるけれど、英語だとPlusとLossだ。むしろ、こっちの方が覚えやすくないか。

 結局、重要なのは、何を伝えたいか、何を伝える必要があるか、何を聞いておかなければならないのか、というコミュニケーションの基本そのものであって、工夫をすれば、日本人の英語でも十分なのだ。わからないことは聞けばいいし、ミスが起きそうなことは確認すればいい。開き直ったとき、道は開けていた。