Jan Wolfe

[8日、ロイター] - コミー連邦邦捜査局(FBI)前長官は8日の米議会証言で、フリン前大統領補佐官に対する捜査を中止するようトランプ大統領から指示されたと認識していると明言し、大統領が司法妨害をしたとの疑惑を補強する格好となった。

司法妨害は、トランプ大統領に対する弾劾裁判の根拠となり得るが、その立証は、当事者の意図が構成要件となるため、明確さに大きく欠ける。コミー氏やFBI捜査に対するトランプ氏の対応や、大統領自身に、司法妨害が適用できるかどうかについて、法律専門家の見解は大きく割れている。

コミー前長官は上院情報委員会に対し、フリン氏に対するFBI捜査から手を引くようトランプ大統領から指示を受けたと理解していると述べた。昨年の米大統領選におけるロシア介入疑惑や、トランプ陣営との癒着の可能性を巡る捜査の一環で、フリン氏は捜査対象となっていた。

コミー前長官はまた、先月突然トランプ氏に解任された理由は、ロシア疑惑の捜査指揮に大統領が不満だったからだと認識していると答えた。

トランプ大統領の代理人、マーク・カソウィッツ弁護士は、コミー氏の議会証言後、「大統領は、形式的にも実質的にも、コミー氏に対して誰かの捜査をやめるよう指示したり、提案したことは一度もない」と述べた。

司法妨害の要件と、コミー証言が訴追や弾劾に結びつくかどうかを検証した。

●司法妨害とは何か

裁判所が扱う事件や、刑事捜査、政府の行政手続きに対する妨害行為を犯罪とする条項は、連邦法と州法に複数存在する。

誰かを司法妨害容疑で訴追するには、検察官は、その人物に捜査や行政手続きを妨害する意図があったことを立証する必要がある。その人物が妨害に成功したかどうかは関係がない。

では、大統領が司法妨害で訴追を受けることは可能なのか。

米国憲法は、大統領を犯罪行為で訴追ができるかどうか、直接言及していない。多くの法律専門家は、これにより大統領は刑事訴追を免れると解釈している。だがこれは、「未決着の法律論争」だと、サバンナ法科大学院のアンドリュー・ライト教授は指摘する。

憲法は、大統領の弾劾について「反逆、収賄、その他の重大犯罪や不適切行為」と明示的に規定している。議会は、司法妨害が重大犯罪や不適切行為に含まれるかどうかを自由に判断することができる。ウォーターゲート事件で、当時のニクソン大統領に対して議会が用意した弾劾の理由の一つも司法妨害だった。ニクソン氏は、弾劾を受ける前の1974年に辞任した。

スタンフォード大法科大学院のデビッド・スランスキー教授は、議会は独自に何が司法妨害にあたるか定義することができるものの、連邦刑法を参考にするだろうと予測する。

ただ、弾劾は政治的なプロセスであり、トランプ氏が所属する共和党が議会の上下両院で過半数を占める現状では、現段階では実現可能性は低いとみらている。

弾劾の手続きは、下院から始まる。刑事裁判で有罪かどうかを陪審員が決める手続きと同様に、弾劾手続きを開始するかどうかについて、下院が投票を行う。下院議員の過半数が賛成すれば弾劾裁判が開始され、下院議員が検察官役、上院議員が陪審員役を務める形で、上院で審理が行われる。上院の3分の2の賛成で有罪が決議されば、大統領は罷免される。

米国で過去に弾劾裁判に持ち込まれた大統領は、1868年のアンドリュー・ジョンソン大統領と、1998年のビル・クリントン大統領の2人のみ。両大統領とも上院が有罪と認めなかった。

民主党のアル・グリーン、ブラッド・シャーマン両下院議員は今週、トランプ大統領に対する「弾劾状」と呼ばれる書類の草案作成に着手したことを明らかにした。だが下院では、こうした動きを後押しする機運は高まっておらず、身内の民主党議員からも時期尚早との声が聞かれる。

●コミー証言は、司法妨害容疑を補強するか

コミー前長官は、2月14日に面会した際にトランプ大統領から、フリン氏は「良いやつ」であり、同氏に対する捜査の中断に向けて「見極め」をつけるよう「希望する」と言われたと証言した。コミー氏は、大統領の発言は「指示」だと理解したと述べた。

一部の法律専門家は、この発言が妨害行為にあたると解釈できると指摘。トランプ大統領に捜査妨害の意図があったことは、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問やコミー氏の直属の上司であるセッションズ司法長官を退席させたうえで、コミー氏に語りかけたことから推測できるという分析だ。

「他の人を部屋から出したということは、自分の行動に後ろめたい部分があることを大統領が認識していたことを示唆する」と、ライト氏は話す。

●司法妨害を補強する材料はほかにあるか

ジョージタウン大ローセンターのローラ・ドノヒュー教授は、トランプ氏がコミー氏を解任したことも、司法妨害の要因になると指摘する。大統領には、FBI長官を解任する権限があるが、ロシア疑惑の捜査を中断させるために解任すれば犯罪になるという。

ドノヒュー氏は、コミー氏の証言は、大統領の意図がそこにあったことを示していると話す。「捜査をやめさせたかったのだろう。それ以外の解釈は難しい」

コミー氏を解任した直後のテレビインタビューで、トランプ大統領がFBI長官を解任したとき、ロシア問題が念頭にあったと述べたことも、妨害の意図を示す証拠になるとライト氏は指摘する。

コミー前長官は8日の公聴会で、トランプ大統領の行動が司法妨害にあたるかの質問に対し、司法省がロシア疑惑を捜査する特別検察官に先月任命したロバート・モラー元FBI長官が答えるべきだとして、回答を避けた。

●大統領の行動が司法妨害に該当しないとすれば、それはなぜか

大統領は、フリン氏の人柄を請けあい、ロシア疑惑の捜査で同氏の役職遂行が邪魔されることへの懸念を表明しただけだと主張できると、一部の法律専門家は指摘する。

「コミー氏は、大統領は要請したのであり、命令ではなかったと明確に述べた」と、ハーバード大法科大学院のアラン・ダーショウィッツ名誉教授は述べた。「そして、コミー氏はそれに従わなかったとも証言した」

ジョージワシントン大法科大学院のジョナサン・ターリー教授は、トランプ氏を司法妨害容疑で訴追する根拠はないと指摘する。

「今回の公聴会で、大統領は気分を害したかも知れないが、法的な立場は傷つかなかった。信頼性のある司法妨害の主張からは遠ざかっている」と述べた。