リード・ホフマンから「開拓者」へのメッセージ

 ベン・シャーウッドは、空中分解した飛行機事故の生還者からライオンに噛み殺されそうになった人まで、奇跡のような体験を生き延びた人をインタビューしたジャーナリストである。シャーウッドは『サバイバーズ・クラブ』(講談社インターナショナル)のなかで、生還者には共通の心構えがあると分析する。「彼らは絶体絶命の危機に瀕しても、警戒を怠らず、集中し、頭もよく働く。そして考え、計画を立てて、行動に移す」。パニックを起こさず、凍りつかず、怖じ気づかない。

 シャーウッドによれば、アメリカ空軍のサバイバル学校では、混沌とした状況を乗り越えるために、こんな印象的な格言を教えるという。「象をひと口で食べようとするな」。体重が7トンもある、この厚皮動物を一気に食べようとすれば、途中で諦めざるを得ないか、消化不良を起こすかのどちらかである。生き延びるためのカギは、「1度にひとつだけ行動する」ことだ。「まずは少しかじる。噛む。呑み込む。そして、またひと口食べる」

 同じことは、アントレプレナーにも言える。リンクトインの共同創業者であるリード・ホフマンは、エンデバーのサミットに出席したとき、参加者のアントレプレナーに同様のメッセージを贈ってくれた。アントレプレナーの仕事を、マラソンやローラーコースターに喩えるグールーは多い。だが、ホフマンは違う。事業を立ち上げて大きく育てるという難しい仕事を、ホフマンがなぞらえたのは、西部に旅立った開拓者が直面した仕事である。「新天地の地図をつくるときには」と彼は言う。「大平原をたった1日で描いたりはしませんよね。旅をいくつもの行程に分けます。そうやって1歩1歩、1日1日、夢に向かって近づいていくんです」

 事業拡大とは、必ずしも大急ぎの拡大を意味しない。会社を大きくする段階で次々と直面する試練を乗り越えるためには、その都度、ペースを落とす必要がある。ヘンリー・フォードも言ったではないか。「小さな仕事に分けてしまえば、とりたてて難しいことは何もない」

 あなたの夢が今度、床に落ちて粉々に砕け散ってしまったときには、まずは深呼吸しよう。そして夢を拾い上げ、仕事に戻るのだ。その瞬間を、あなた自身の夢を実現する転換点だと思ってほしい。