橘玲の日々刻々 2017年6月12日

”高等教育の無償化”は教育関係者への補助金!?
[橘玲の日々刻々]

 2020年施行を目指して憲法改正を表明した安倍首相ですが、9条と並んで「高等教育の無償化」を掲げたことが議論を呼んでいます。

 「わざわざ憲法に書き入れる必要はない」との批判は、9条改正の目くらましを警戒しているのでしょう。「社会保険料から徴収する子ども保険は負担が現役層に偏り不公平だ」とか、「子ども国債は赤字国債と同じで将来世代への借金の先送りにすぎない」との批判もありますが、だったら消費税を引き上げて教育予算を増額すればいいのでしょうか。

 この問題を考えるポイントは、そもそも教育無償化が誰のためのものか、ということです。

 農家が、「ご飯をたくさん食べれば健康で長生きできる」としてコメの無償化を求めたとしたら、これが農家への補助金であることは誰でもわかります。しかし教育の無償化では、まったく同じことを主張しているにもかかわらず、「子どものため」とか「未来の日本ため」とされて、教育関係者への巨額の補助金であることは誰も指摘しません。

 これは国民のあいだに「教育はよいもの」という幻想が強いことと、一般的に教育関係者が頭がいいことから説明できます。彼らはその高い知能を使って教育幻想をまき散らし、政治家や官僚、国民を幻惑して自分たちの懐に税金を投入させようとし、その利己的な所業を自己欺瞞によって気づかないようにしています。優秀な詐欺師と同じように、自分への補助金を「子どものため」だと本気で信じ、きれいごとをいいつづける厚顔無恥は、自分で自分をだましているひとにしかできません。

 教育を無償化する根拠として、高卒より四年制大学の卒業者の収入が高いことが挙げられますが、これは奇怪な論理です。

 一流大学の卒業生が就職に有利なのは、その希少性が知能と能力の指標として使われているからです。「東大卒」のブランドがあれば誰でも成功できるなら、18歳の全員が東大に入れるようにすればいいでしょう。大卒を増やせば貧困を解消できるというのは因果関係が逆転しています。

 もちろん、「賢い子どもが貧しさで進学をあきらめる」ことはあるでしょう。しかしその場合は、奨学金や民間金融機関の教育ローンを充実させればいいだけです。「よい大学にいけば経済的に成功できる」というのがこの話の前提なのですから、社会に出たあとに利子をつけて返済してもらえばいいだけの話で、税金を投入する理由はどこにもありません。

 教育無償化の理屈が破綻するのは、「子どものため」に税金を使えと主張するからです。「私的な利益になぜ自分の税金が使われるのか」との批判に抗するには、教育が「社会のため」であることを証明しなければなりません。「人的資本に投資すれば、(犯罪率の低下などで)10万円の税金が将来的に20万円になって返ってくる」というのなら、この話を真剣に考えるひとも出てくるでしょう。

 だったらなぜ、「証拠に基づいた」議論ができないのでしょうか。それは、日本で「高等教育」と呼ばれているものの現場にいるひとたちが、働いて税金を納めることのできる人材を養成しているかどうかを検証されると困るからなのでしょう。

『週刊プレイボーイ』2017年6月5日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。ダイヤモンド社から新刊『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』が発売予定。

橘玲『世の中の仕組みと人生のデザインを毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中) 


出版即重版決定! 橘玲氏の最新刊!2017年6月14日発売!
幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版決定!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,500円(+税) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額864円(税込)
いますぐ試す(20日間無料)

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。