麻倉怜士のハイレゾ

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『ターン・アップ・ザ・クワイエット』
ダイアナ・クラール

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 ダイアナ・クラールの11年ぶりのジャズ・スタンダード・アルバム。多くのジャズの巨人をプロデュースし、デビュー前のダイアナを発見し、サポートしてきたトミー・リピューマがプロデュース。今年3月に逝去した彼の遺作になった。

 1曲目、「ライク・サムワン・イン・ラヴ」。快適にスウィングするベースのみをバックし、冒頭から、すでにダイアナの世界に入る。深いヴォーカルが、心地良く始まる。大きな音像だが、その体積感のなかに、豊かなニュアンスが横溢している。続いてダイアナのピアノ、ギター、ベースがソロプレイを連続させる。まさに、スタンダードな曲をスタンダードにプレイ。2曲目、「ロマンティックじゃない?」。ダイアナの豊潤な表現力が、イントロの歌いの味わいをより深くしている。ヴァースもまさにタイトルどおりの、ロマンティックさ。豊潤な低音に取り込まれそうになる。ゆったりとしたダイアナのソロピアノもいい感じ。

FLAC:192kHz/24bit
Verve、e-onkyo music

『チャイコフスキー:交響曲 第6番《悲愴》』
ベルリン放送交響楽団,
フェレンツ・フリッチャイ

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 天下の名録音がDSDで聴ける技術革新を喜びたい。この時代のドイツグラモフォン録音ならではのピラミッド的な安定した音調に、DSDらしいシルキーなタッチが加わり、この名指揮者がいかに細部の表情に磨きをかけていたかが、明瞭に聴けるのである。フェレンツ・フリッチャイは1914年、ブダペスト生まれ、1963年に49歳で夭逝した。第二次世界大戦後のフルトヴェングラー亡き後の、ヨーロッパ楽壇で、もっとも熱い期待を掛けられた名指揮者だ。

 1958年秋から白血病のため休養していたが、1959年夏に指揮活動に復帰。この時から、楽風が一挙に巨匠的になった。エモーションを色濃く音楽に投影し、深い味わいを表出する大指揮者になった。1959年9月録音の本演奏がまさにその典型だ。第一楽章を再録音したいとのフリッチャイの希望により長く発売が見送られ、1996年になって初めてリリースされたいわく付きの演奏だ。

 第一楽章の冒頭、弦、管のさまざまな楽器が顔見せ的に登場する場面では、それぞれの持つ音楽的意味を明確にしながら、クレッシェンドに誘い、ついにはトゥッティまでなだれ込むダイナミックな進行にはわくわくする。もちろん古い録音だから、最近のような細部まで徹底した描き込みにはやや不足するが、アナログでなければ捉えられない音の濃密な表情感は、やはりDSDのアナログ的伝達力がもっとも似合う。

 第一楽章第二主題の悠々としたむせび泣き方、表情の濃密さはまさに フリッチャイの独壇場。解説文にあるように「一音一音を慈しみ、万感を胸に抱き演奏された」名演だ。1959年9月、ベルリンで録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『Musica Bonita』
Choro Club

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 ギター、マンドリン、コントラバスのトリオ。典雅で優雅なアコースティックサウンドだ。サイデラ・スタジオでのDSD録音。ゆったりとビーチのリゾートカフェで、アフターヌーン・ティをいただきながら、波の行く去るを眺めるという場面にぴったりの、癒しの音楽。「古城のワルツ」はマンドリンの少しコケティッシュな、快活で、憂いを含んだ音色にて、ベースの弓弾きのサステインとよく似合う。

WAV:96kHz/24bit、FLAC:96kHz/24bit、DSF:5.6MHz/1bit
Saidera Mastering & Live Recording、e-onkyo music

Pearl
LOVE

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 伝説のバンド、core of soulのヴォーカリストLOVEが、バンド解散後、ソロ・デビューし、今年で10年になる。1曲目、Drive。まさにタイトルとおりの、駆動力とドライブ感が横溢する、良質なポップだ。ハッピーな雰囲気が、躍動感のある前向きなメジャー調で描かれる。ヴォーカルはほわっというやや曖昧な音像感で、センターに定位。バック楽器の音場もセンターに蝟集している。7曲目「はたちのころ」は、センター定位は変わらないが、時折、バスドラが位相シフトにより、聴取位置まで出てくるのが面白い。レンジ感は中域に集中しているが、もう少しヌケのクリヤーさも欲しい。

WAV:48kHz/24bit、FLAC:48kHz/24bit
Air Play、e-onkyo music

『God's Problem Child』
Willie Nelson

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 84歳になったウィリー・ネルソンの最新アルバム。「God'sProblem Child」の邦題は「なんてこったい!」だ。1曲目。Little House on the Hill。カントリーの大御所の声質はまろやかで深く、聴く者に安寧感を与えてくれる。ビロード的な豊潤な質感には、まったく変りはなく、ディープでグロッシーな声がとても嬉しい。録音も細部をきりきりとくっきりと表現するような特性指向でなく、ウイリー・ネルソンのジェントルで、ヒューマンな朗々たる歌唱をインティミットに、麗しく、そして豊かな容量感にて録ることを、方針にしたようだ。寛容と癒しがコンセプトだ。

FLAC:96kHz/24bit
Legacy Recordings、e-onkyo music

『TajMo』
タジ・マハール, Keb' Mo'

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 アメリカのブルース・アーティスト、タジ・マハールとケブ・モのコラボ・アルバム。心地良いビートと、輪郭が明瞭で説得性に富む大人のロックヴォーカルが、気持ち良い。

 1曲目、Don't Leave Me Hereではヴォーカル音像はセンターにしっかりと位置し、バックの楽団が2つのスピーカーの間に広い範囲で分散。ブラスが左、リードギターとドラムスがセンター、リズムが右に定位。2曲目、She Knows How To Rock Meも快活なリズムに乗って、南部的なハッピーな叙唱だ。カントリーとブルースが合体したような、前のめりな進行と、ちょっとビターなヴォーカルがいい味を醸し出している。

FLAC:44.1kHz/24bit
Concord、e-onkyo music

『はなわちえ 津軽三味線独奏集 Vol.1』
はなわちえ(ネイティヴDSD11.2録音)

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 女流津軽三味線のDSD11.2MHz録音ミニアルバム。鮮明で鮮烈な津軽三味線のソロだ。センターに確実に定位し、アンビエントも浅いので、音像がダイレクトに見え、聞こえる。

 目にも止まらないバチワーク、音の立ち上がり/立ち下がりの尖鋭さ、独特の哀愁と華やぎを持つ楽器の音色が、DSD11.2MHzの広大なる表現力で確実にキャプチャーされている。DSDの良さは、音の輪郭の美しさだ。まったく強調感がないのに、ひじょうに細密な部分までエッジ感が捉えられている。世界に誇る日本の民芸の鮮烈な記録としても貴重な作品だ。

WAV:192kHz/24bit、FLAC:192kHz/24bit、DSF:5.6MHz/1bit、DSF:11.2MHz/1bit
キングレコード、e-onkyo music

『ロマンス』
原田知世

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 原田知世のデビュー35周年記念プロジェクトの一環として、1997年1月22日にリリースされた「ロマンス」を20年後に、セルフ・カヴァー。オリジナルを別の音源で聞いた。ブラスとキックドラム、ギターサウンドとビートの明確さで聴かせる「ロマンス」。多重録音が90年代的なメタリックでポップな質感を聴かせる。それも声質がはっきりと違う声とダブルレコしている。ストリングス、ブラス、ビートの快活さと重さも特徴だった。

今回の「ロマンス[2017 Version]」も基本的な音構成は踏襲しているが、より開放的になり、ヴォーカルも軽妙になった。質感に爽快感が加わったと形容できよう。ハイレゾ的な高解像ではないが、JPOP的な凝縮感と進行の鮮やかさが音的な聴きどころだ。「愛のロケット」はブラスとエレクトリックの鋭角的なサウンドに乗って、ダブルトラックの透明な歌唱が熱く進行する。音調はハイファイではなく、中域中心の感覚。

FLAC:96kHz/24bit
Universal Classics & Jazz、e-onkyo music

『デッドリイ・ドライブ【40周年記念デラックス・エディション】』
伊藤銀次

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 伊藤銀次のデビューアルバム『デッドリイ・ドライブ』(1977年5月25日発売)を、いま再度リミックスした。4曲目「こぬか雨」。旧ミックスは滑らかで、すべらかなヴォーカルと、まとまりがよい、都会的なバックとコーラス。ドラムスの重いビートが目立つ。

 新ミックスは21曲目「こぬか雨(2017 Re-Mix)」は冒頭のエレピの透明感が格段に上がる。旧は全体に重さを感じる質量だが、新はやや軽く、ベースの切れ味感も向上した。重奏部分でも各パートの解像感も上がっている。オーディオ的な表現ではヴェールを数枚、引きはがしたという雰囲気。ヴォーカルも輪郭が明瞭になり、体積感も増すが、透明感も増す。音像としてのその位置での安定感も格段に違う。このリミックスは大成功ではないか。

FLAC:96kHz/24bit
ワーナーミュージック・ジャパン、e-onkyo music

『GOLDEN☆BEST
山口百恵 日本の四季を歌う』

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 春・夏・秋・冬のテーマごとに各9曲を選曲、合計36曲のアルバムだ。10曲目「ひと夏の経験」。懐かしい名曲のオリジナルバージョン。センターに、ヴォーカルとベース、ストリングスは両チャンネル、左にチェンバロ、右にエレクトリックギターという拡散的な音場陣容だが、音像が安定し、音色も極端な歌謡曲調ではない。ヴォーカルのエコーが多すぎるので、ハイレゾ用にリミックス、リマスターも期待したいが、当時のシングルそのままの音調が、透明感の高いハイレゾで聴けるというのも、嬉しい。

 36曲目「いい日旅立ち」は再録。別にダウンロードできるファイルで聴いたオリジナルは冒頭のトランペットが印象的で、リズムの強調され、音そのものもとても古い感じなのだが、新録は編曲がまったく異なり、トランペットはなく、ヴォーカルのエコーも大幅に増えている。旧録はポップだが、新録は日本的な情緒がより前に押し出されている。音質はこちらの方が断然良い。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Direct(Japan)Inc. e-onkyo music

『アンコール!』
渡辺 貞夫

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 1980年の武道館公演の楽曲を昨年末に、渋谷オーチャードホールで再演したライブ。当時のピアニスト、デイヴ・グルーシンをゲストに迎え、36年ぶりに再演したライヴ・アルバム。必ずしも音響特性が万全でないホールなので、ビックバンドのトゥッティ場面では、マッシブ感が先に立ち、細部の描写や切れ味は曖昧だが、ナベサダのサックスプレイは明瞭に、グロッシーな音色感覚が記録されている。意義深い名ライブのドキュメンタリーとして、意義深いアルバムだ。

WAV::96kHz/24bit、FLAC:96kHz/24bit
JVC、e-onkyo music