午後になったら遊びに行く経理マンは、なぜ社長になったか?

 私の部下のお話をしましょう。
 いずれも、私の失敗談と言ってもいいかもしれません。

 いま、私は約50社を束ねるテクスケム・リソーセズの会長を務めていますが、社長を任せているのが、現在40代の華僑の青年です。彼は、マレーシアの秀才を集める国立マラヤ大学を優秀な成績で卒業して、公認会計士の資格をもって入社してきました。ところが、当初から頭脳明晰な若者だとの印象はもっていたのですが、ある噂を耳にして不信感をもったことがあります。

 彼には、ある会社の経理を任せていたのですが、仕事が速いから午前中にやるべきことを終えて、午後はどこかに遊びに行っているというのです。これを耳にした私は、彼の上司を呼び出して「どこに遊びに行ってるんだ?」と尋ねました。すると、「工場に行ってるようなんです」と言います。そこで、工場長を呼んで話を聞いて、私は不明を恥じることになります。

 彼は、工場に遊びに行って何をしていたのか?
 現場をくまなく見て回るとともに、現場の人たちの話に耳を傾けていたのです。そして、経理システムを現場に合わせて変えようとしていた。しかも、その姿勢が現場の信頼を勝ち得て、逆にいろいろ教えを乞われるようにまでなっていました。「原価率とは何か?」「減価償却とは何か?」……。こんなテーマについて説明をするなかで、現場のメンバーにも「数字」に対する意識が高まっていきました。それが、会社の財務状況の改善にも結び付き始めていたのです。

 私は、「これはすごい」と思いました。公認会計士として立派なバックボーンをもった若者でしたが、経理マンとして終わらせるのはもったいない。そう考えて、営業職に異動。今度は、営業現場の経験を積ませたのです。もともと現場を大事にする姿勢をもつ彼ですから、営業でも抜群の成績を収めるようになりました。会計学というバックボーンに加えて、「営業力」という武器も身につけたわけです。しかも、現場を大切にする彼には、社内外からの人望も集まりました。いわば、若くして「最強の武器」を手に入れたわけです。

 こういう人物には仕事を任せられる。そう考えた私は、30代で、ある会社の副社長に大抜擢。現場で汗をかいてきた人間は、「仕事勘」が磨かれています。たとえば、財務状況の微細(びさい)な異変から、現場で起こっていることの確度の高い仮説を導き出すことができるのです。そのうえで、現場を自分の目で確認。現場スタッフのヒアリングも行って、問題の真因(しんいん)を明確化。そして、確かな手立てをとることができます。

 そんな彼の経営者としての仕事ぶりをじっくりと見極めたうえで、私は2年後に彼をその会社の社長に抜擢。そこで実績を積ませたうえで、40代にしてテクスケム・リソーセズの社長を任せたのです。彼は頭脳明晰ですし、公認会計士という資格も持っている。しかも、人柄もいい。しかし、彼が「現場を大切にする」という姿勢がなければ、それらの“無形の財産”も「宝の持ち腐れ」になったかもしれません。それほど、「現場」は大事なものなのです。