総務省が6月末に発表した2010年度国勢調査の速報値では、単身世帯が31.2%と最多で、夫婦と子供から成る世帯を初めて上回った。懸念されるのは単身者の社会的孤立や孤独死などだが、アメリカのニューヨークでは単身世帯が50%を上回るにもかかわらず、孤立している人は少ないという。マンハッタンのど真ん中にあるレストランで高齢女性が一人でディナーを食べても、まったく孤独感を感じさせないという。独居者があふれたニューヨークでなぜ、孤立している人が少ないのか。大都市の人間関係や社会的インタラクションなどに詳しい社会学者に、日本の孤独死問題などへの対応も含め話を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)

――「大都市では人間関係が希薄で、孤立した人が多いというイメージがあるが、それは正しくない」とあなたは主張している。では、どう捉えるのが正しいのか。

都会の人間関係砂漠説は嘘だ――ひとり暮らし世帯3割超えの日本がニューヨークに学べることロバート・サンプソン(Robert Sampson)
シカゴ大学社会学部教授などを経て、2003年からハーバード大学教授。同大学ラドクリフ高等研究所の上級アドバイザーを兼務。専門は都市の社会構造、地域社会環境と個人の自立、集合的な市民生活、犯罪など。15年間にわたる独自の研究調査にもとづき、犯罪・暴力の多いシカゴのような大都市でも地域の支援体制や社会的なつながりなどを強化すれば、個人が自立して安心できる生活環境が実現できることを具体的に示した新著”Great American City; Chicago and the Enduring Neighborhood Effect“(今秋刊行予定)は発売前から話題をよんでいる。

 これまで社会学者の間では、産業化や高度技術社会などは人間関係の希薄化や社会的孤立を招くと考えられていた。そのため、都市に住む人々は孤立、自殺、犯罪などのイメージで見られがちだった。

 しかし、実際には都市の人々はそれほど寂しいと感じていないし、孤立してもいない。

 大切なのは都市の大きさや、地方と都市の違いなどではなく、人間関係の本質がどうなっているかである。ニューヨークや東京、リオデジャネイロなどの大都市に寂しい人が多く住んでいるということではない。

 都市には人間関係を築く機会が多い。人々は街頭を歩きながらお互いに挨拶したり、さまざまな社交の場に参加したりできる。一方、地方はどこへ行くにも車なのでお互いに挨拶する機会は少なく、社会的インタラクション(互いに働きかけあう社会的行為)の機会も少ない。また、地方でも都市と同じように孤立、自殺、犯罪などの問題は存在する。

 従って、都市には寂しい人、孤立した人が多いというのは正しくない。都市は人口が多いので孤立した人の数は多いかもしれないが、その割合が地方と比べ著しく高いということはない。

――ニューヨーク市では単身世帯(独居者)が全体の50.6%を占めるというが、彼らは孤立していないのか。

 とくにマンハッタンはプロフェッショナル(知的専門職)の人が多いこともあり、独居者の割合が高い。

 私は2010年9月から1年間の予定でハーバード大学を離れ、ニューヨークのラッセルセージ財団客員研究員としてマンハッタンに住んでいる。ここは世界で最も都市環境の密度が高い地域である。社会的インタラクションがさかんで人々はさまざまな活動に参加し、積極的に人間関係を広げている。