有機EL特集
「レグザ X910」シリーズ

 今、テレビ業界で注目を集めている有機ELテレビ。その発売メーカー4社を取材して各々の特徴について解説する本特集だが、最後を飾るのは東芝だ。

 東芝は国内メーカーとしてはいち早く有機ELテレビの「レグザ X910」シリーズを発売。画面サイズは55V型(実売価格 59万円前後)と65V型(同86万円前後)の2モデルとなる。

 価格的には最上位となるモデルだが、同社としては、液晶モデルの最上位である「レグザ Z810X」シリーズも同時に発売しており、ともに位置づけとしては最上位モデルとしている。

大画面モデルのほうが好調な売れ行き

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今回お話をお伺いした、東芝デベロップメントエンジニアリング デジタルメディアグループ IoTソリューション開発担当 TV映像マイスタの住吉 肇氏(左)と、同じく音声マイスタの桑原光孝氏
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東芝映像ソリューション VS第一事業部 VS国内第一部 TV商品企画担当 参事の本村裕史氏

 有機ELはコントラスト性能に優れ、映画館のような暗い環境で完全な黒を再現できることが大きな特徴。一方で液晶は画面輝度に余裕があり、明るい部屋で鮮明な映像を楽しめることが特徴。

 それぞれに表示パネルのよさがあり、それを活かした商品づくりを行なっている。映画に最適で画質にこだわるならば有機EL、明るい環境で快適にテレビを視聴することが多いならば液晶、と使い方に合わせて選べるようにしているという。

 有機ELは液晶の上位というよりも、薄型テレビの新カテゴリーと考えているそうだ。

 なかなか高額な商品だが、こちらも期待通りの好調なセールスとなっており、人気は65V型の方が高いということだ。

5月下旬のアップデートで画質をさらに向上
14年間熟成を重ねた技術が有機ELテレビに!

 X910シリーズは、発売後間もない5月下旬に大きなアップデートが行なわれた。地デジ放送をより高画質化する「地デジBeauty PRO」の搭載をはじめとする機能アップデートと、そして暗部階調性の向上だ。

 暗部階調性の向上についてだが、完全な黒が再現できる有機ELだが、実は暗部階調の再現は苦手な面もあるという。

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暗部の階調は図の赤い部分(0と1の間)をどう再現するかが課題

 有機ELパネルは10bitパネルなのでRGB各色で1024階調の表現ができるが、最初の「0」(非表示)から「1」の階調が一気に明るくなってしまうという。そのため、「0」と「1」の間の階調を埋める必要がある。

 これについては、液晶の階調表現でも使われる技術「魔方陣アルゴリズム」などを進化させて採用している。ちなみにこの魔方陣アルゴリズム、同社がプラズマテレビを発売していた2003年ぐらいから登場した技術。

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魔方陣アルゴリズムのイメージ図。4分の1階調を表現する場合、複数の画素を4回連携駆動させる(あくまでも概念図なので実際の画素の点灯とは異なる)

 液晶は初期のパネルは8bit表示だったので、階調表現を高めるためにこうした技術が生まれた。簡単に説明すると、1画素では再現できない「0」と「1」の間の階調を周辺の複数の画素と連携して表示することで再現する技術だ。

 問題はここの階調感の再現で、発売直後は黒の締まりを重視したものになっており、よりスムーズで忠実度の高い黒の再現をするために、画質パラメーターを全面的に見直したのだという。

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HDRの明部も手動で調整できる
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1から10の範囲で設定可能だ

地デジもきれいに見られる「地デジBeauty PRO」

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「地デジBeauty PRO」の説明図(BZ710Xのもの)

 そしてもうひとつの地デジBeauty PROは、地デジ放送をより高画質化するためのもの。液晶下位モデルの「レグザ BZ710X」シリーズで初搭載されたものだが、効果が大きいため、機能アップデートで実装した。

 有機ELは画質のポテンシャルは極めて高く、画質にこだわるユーザーが購入することが多いモデルだが、それでもほとんどのユーザーは映画だけを見るわけではなく、普段見るのは地デジというのは大きく変わらないはず。だから映画がきれいというだけでなく、地デジもきれいに見られることが重要だという。

 地デジBeauty PROのポイントは、地デジで目立ちやすいノイズの低減と、ディテールの向上の両立。ディテールを向上するとノイズも強調してしまうため、両立するのは難しい。

 そこを同社自慢の超解像技術や高度なフレーム相関のノイズリダクションなどを駆使して、ノイズがないのに精細という映像が楽しめるようになっているそうだ。

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「ハイクリア」モードの説明図
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倍速モードの設定で「ハイクリア」のオン/オフが可能

 また、東芝ならではの技術として、「ハイクリア」モードを採用している。これは、黒挿入技術と呼ばれるもので、映像と映像の間に黒に近い映像を挿入して動画ボケを低減する技術だ。

 有機ELは応答速度が速いので動画ボケは気にならないと言われてきたが、開発段階で液晶と同じようなホールドボケが生じていると気付き、有機ELでも実装した。

 さらに、これにともなって階調表現の緻密さを2倍相当に改善する、といったことも行われている。ホールドボケを低減し、しかもより階調を高める効果が得られる他社にはないものだ。

スピーカーも独自仕様のものを採用

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スピーカーは下方に配置。下向きのインビジブルタイプだ

 音質については、スピーカーの存在を極力なくしたインビジブルタイプとしているが、その範囲内でできる限りの高音質化を目指したという。

 スピーカーは独立したバスレフボックスを持ち、トゥイーターとフルレンジユニットによる2Way構成としている。専用DSPによる音質補正や独立したアンプによる駆動など、オーディオ回路やアンプ回路も磨き上げることで、質の高い音を実現している。

 もちろん、映画コンテンツのサラウンド音声などを大迫力で楽しむには物足りない面もあるが、そのあたりについては、薄型テレビに内蔵するには不可能な本格的なスピーカーによるサラウンド再生装置を組み合わせるのがおすすめだという。

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前面下方のスタンド部分。目立たないようなデザインになっている

 最近の薄型テレビのデザインの主流でもあるが、画面以外の要素を極力なくしたデザインは、そうしたスピーカーとの組み合わせをしやすいことも意識しているそうだ。

 このため、スタンドは存在感の薄い形状だし、前側に突出した部分がないことも画面以外を感じさせないために徹底したという。

階調性が向上し、映像の品位が大幅に向上
地デジの美しさも印象的。

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いよいよ視聴だ!

 65X910でその映像と音を確認させていただいた。筆者は発売直後のアップデート前の映像もじっくりと確認したことがあるが、アップデート後は、明らかに暗部の階調性が向上し、暗いシーンの多い映画などでも映像の見通しの良さが大きく向上していた。

 単純に暗い部分が見やすくなっただけでなく、暗い部分の色がより豊かになっていることに感心した。明暗のきめ細かさだけでなく、色のきめ細かさまでも向上し、結果としてより色鮮やかな映像になったと感じた。

 黒挿入を行なう「ハイクリア」も試してみたが、映像の動きに伴うボケ感がなくなり、より鮮明な印象になる。メガネを変えて視力が上がった感じになる。

 これは不思議なほどだったが、ホールドボケの改善だけでなく階調性も向上したことで映像のディテールの再現性も向上していることがよくわかった。この鮮明さは大きな強みだと感じた。

 また、地デジ放送も見てみたが、65V型の大画面でも実に鮮明だ。そしてテロップ文字の周辺に目立ちやすいモスキートノイズもよく抑えられているし、動きの激しい場面で目立つブロックノイズもほとんど気にならない。地デジ放送がこれほどきれいなのは、かなりの驚きだ。

 そして、音声もなかなかのもの。下を向いたスピーカー特有の不明瞭さもなく、声もクリアに聴こえるし、音楽を聴いても中低域に厚みがあって聴き応えは十分。気軽にテレビドラマなどを見るならば、十分以上の音になっている。

細部まで徹底的にこだわった作りに
開発陣の熱意を感じる。

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パネル部の傾斜は2度。そこには画質に対するこだわりが……

 有機ELの薄さを活かしたデザインも見事なものだが、ここにもかなりのこだわりが詰まっている。

 X910シリーズは前方にスタンドが飛び出していないデザインを採用したが、そのために画面全体の角度は2度傾斜している。これも2度と3度の傾斜を検討し、画面が傾斜している感じがない2度を選んだ。

 傾斜を3度とすればスタンド部分の重量も軽量化できるなどコスト削減もできたのだが、映像のためにあえて2度にこだわったという。

 結果的に言えば、スタンド部分の重量増や傾斜のためにボディー全体の強度を高めたことは音質にもいい方向に働いたとのこと。ボディーの不要な振動が減ることで、音の明瞭度が高まったというわけだ。

 こうした数々のこだわりが細部にまで徹底され、X910シリーズは自信の一作と言えるモデルとして完成した。

 もちろん、どのメーカーもこうしたこだわりの作りは同様だし、同じ有機ELでもその映像と音にはそれぞれに個性があった。

 話題の有機ELテレビだけに、多くの人が店頭に足を運ぶと思う。現在、4社の有機ELテレビが出そろった形だが、映像と音をじっくりと確認するだけでなく、細部までこだわったデザインにも注目してほしい。

 見慣れた液晶テレビとはひと味違う、新しいテレビに新鮮な驚きを感じるはずだ。