前代未聞のサービス残業代190億円を支払ったヤマト運輸。働き方改革を進めるが、現場の実態に即しているかは疑問符が付く。値上げに突き動かされた真の理由に迫った。(週刊ダイヤモンド編集部 柳澤里佳)

ヤマト現場「18時過ぎは鬼の形相」、ホワイト改革は前途多難

「働き方改革? 荷物が減ってないのに『休憩を取れ』ってプレッシャーかけられて、嫌になっちゃうよ」。5月末、首都圏のある支店で働くヤマト運輸のセールスドライバーはこう吐き捨てるように言った。

 以前は朝7時半から荷物をトラックに積み込み、8時には配達に出ていた。しかし今では上司から「出社は8時以降」とくぎを刺されている。それでも1日平均140個もの荷物を届けなければならず、13時間も拘束されて休憩は15分ほどしか取れない。ベテランの自負があるので笑顔と丁寧な接客を心掛けているが、18時を過ぎると疲労のあまり、「鬼の形相になってしまう」こともしばしばだ。

 ヤマトは4月から働き方改革を推し進めている。全国で6万人いるドライバーの多くが休憩を取れず、長時間労働とサービス残業を強いられていたことが、社内調査により判明したからだ。背景には、インターネット通販の急拡大による荷物の増加と、昨年夏から労働需給がタイトになったことがある。

 ところが、冒頭のドライバーの証言のように、現場ではむしろ混乱が増している。

 さらに、6月からはドライバーに昼休憩を取らせる狙いで、12~14時の配達時間指定枠を廃止するという。しかしこれも「現場の実態に即していない」(別支店のドライバー)。朝に積み込んだ荷物を届け、一度支店に戻ってくるのが13~14時ごろ。すぐに14~16時指定が待ち構えているから、荷物を積み込み慌てて出発する。14~16時指定が廃止された方が、夜のピークに向けて十分な休憩が取れるはずなのだ。

 経営陣は現場の窮状を改善するために、1年以内に荷物を8000万個減らして、9200人を採用すると言う。しかしある管轄では200人弱を採用しても同じ数だけ辞めていった年もある。本社が進める改革は、「現場を知らない連中がつくった名ばかりのもの」(同)と同僚と言い合っているという。

 働き方改革はいわば内部の改革。同時にヤマトが対外的に進めているのが顧客との値上げ交渉だ。