医療改革は年齢制限なしに

 わが国の健康保険制度は、戦後半世紀の尺度で眺めると、平均寿命の伸長と医療費の抑制(対GDP比で見れば、わが国の医療費は英国と並ぶ低水準)という優れた成果をもたらした。筆者はその核の一つは高額療養費制度にあると考えている。

 不幸にして重い病を患い高額の医療費がかかったとしても、一定金額で頭打ちとなり天井知らずの負担を心配しなくてもよいこの制度ほど、国民皆保険の趣旨に沿うものはないであろう。

 ところで、現在の高額療養費制度は年齢(70歳以上かどうか)や所得によって分けられているが、先にも見た通り、わが国では高齢者が必ずしも貧しいわけではないし、通常のケースでも70歳以上の現役並み所得者の窓口負担は3割となっているのだから、年齢基準を外して所得水準一本で制度運営を行うべきではないか。同様に医療費の自己負担についても、70歳から74歳などの年齢基準をすべて外して、所得水準一本で再構成することが望ましいと考える。

  結論を述べれば、年齢区分を排して、所得水準(現行の高位、中位、低位所得者の3区分を存置してよいと考える)で区分した高額療養費制度と自己負担(3割)制度を中核とし、必要に応じて受診時定額負担等を組み合わせることが健康保険制度改革の大きな方向性ではないか。

電子カルテの早期導入を

 一体改革成案にある「ICT(情報通信技術)活用による重複受診・重複検査・過剰薬剤投与の削減」を実現するためのベストの方策は、健康保険証をICカード化し、医師や患者がカルテの情報にいつでも自由にアクセスできるようにすることである。

 カルテは基本的には患者のものである。常に携帯する健康保険証を起点として過去の病歴にすべてアクセスできるようになれば、仮にいつどこで倒れたとしても市民の不安は一掃されよう。現在の技術水準をもってすれば、10年を要することなく電子カルテへのアクセス権を全市民に行き渡らせることは十分可能であると考える。

 また、将来的にはカルテの他、献体(臓器提供)意思の有無や、本人が意識を失った時等のことを考えて、どのような終末医療を望むか等の個人情報を入れ込むことが望ましい。本人が真に望む医療を受ける権利は、基本的人権そのものに他ならないと考えるからである。

 医療改革については、年齢区分の廃止と電子カルテの導入に加えて、英国のように病院・診療所の役割分担を踏まえた外来受診の適正化も、大きな改革の柱になると考える。裁判制度も全員が高裁や最高裁に駆け込んだらたまらないであろう。最初の裁判は地裁から始めるように、医療についてもまずは近くの診療所から始めるという社会慣行をこれからは作って行くべきであろう。