記憶に定着させるカギは
「感情」と「回数」

鈴木 一般的に「記憶は、感情を伴うと忘れにくい」と言われていますよね。狩猟時代、人間は危機感や恐怖を感じたときの体験を忘れないようにしていて、それで今でも感情が動いたときのことを脳が記憶するようになっている、という理論があるらしいです。

賢い人がやっている<勉強法>に共通する、あるポイント西岡壱誠(にしおか・いっせい)
東京大学2年生。1996年生まれ。東大輩出者ゼロの無名校でゲームにハマり、落ちこぼれ、学年ビリに。偏差値35の絶望的状況から一念発起して東大を目指すも、現役・一浪と、2年連続で、箸にも棒にもかからず不合格。崖っぷちの状況で「ゲーム式暗記術」を開発し、みるみるうちに偏差値が向上。東大模試第4位になり、奇跡の東大合格をはたす。著書に『現役東大生が教える「ゲーム式」暗記術』がある。

西岡 なるほど、本能的なことなんですね。

鈴木 逆に何もない平和な状況だったら、積極的に記憶に残す必要がないから忘れていってしまうんでしょうね(笑)。

西岡 確かに、驚いたりうれしかったり、楽しかったりという感情が働くと、テレビで見たくらいのレベルでも頭に残ることってありますよね。反対に、いやいや続けていて、何の感情も動かないような状況になってしまうと、暗記においてはダメージになるのかなと思います。

鈴木 機械的に覚えるのは辛いですから。

西岡 そう、単調にただ覚えるだけというのがいちばん辛い。効率も悪いし続かないですよね。だから、何らかの工夫をしたほうがいい。『7日間勉強法』では、「突飛なイメージやストーリーで覚えると印象に残る」というテクニックがありましたね。

鈴木 そうですね。ほかには、無理やりな語呂合わせとか。『「ゲーム式」暗記術』でも紹介していましたね。

西岡 はい、鈴木さんの方法とも親和性があると思いました。語呂合わせを思いつくためには、普段から突飛なことや非現実的なことを思い浮かべるようにしておくのもいいかもしれませんね。

鈴木 あとは、何度も触れる情報も記憶に残りやすいと言われています。

西岡 何度も触れることによって「これは重要な情報だ」と海馬が判断して、記憶してくれるんですよね。

鈴木 そう。だから、覚えるためには、何度も繰り返すしかない。私の勉強法でも、とくに試験前日は何度も繰り返して記憶に定着させるようにしています。

西岡 1回読んだだけで覚えられるような天才がたまにいますけど、そんな人は本当に一握り。私たちは天才ではないので、やはり何回も繰り返し触れる必要があると思います。

合格するために
必要不可欠なものとは

鈴木 暗記ももちろん重要ですが、トータルなことで言うと、試験に合格するためにいちばん大切なのは、「戦略」だと私は思っています。『7日間勉強法』の中で詳しく書きましたが、攻略する試験がどういうものかまず把握して、何を準備しどう攻めていくのか、何を捨てて何を残して勝負するのか、という戦略を立てる。それがないと始まらない。

西岡 先ほども言いましたけれど、鈴木さんのその「捨てる」という発想はすごいです。多くの人は、一から百まで全部やらないと受からないと思い込んでいますから。でも70点で合格できる試験なら30点落としてもいい。そういうことは一人で勉強していたらなかなか気づけないことだと思います。

鈴木 捨てたうえでやるべきことをしぼり込むためにも、最初にうまく戦略を立てられるかどうかがポイントになってきますね。車でしか行けないと思っていたけれど、実は飛行機で楽に行ける、みたいな意外なルートが見つかったりしますから。

西岡 そうですよね。私の場合は、試験において大切なのは「復習」だと思っているんです。でも、復習って泥臭いイメージがあって、忌避されがちなんですよね。参考書を一冊勉強し終えると、人はつい次に進みたくなってしまうじゃないですか。そのほうがいろんなことを学べている気がするし、満足できるから。でもそこで大事なのは、次の参考書にいくことよりも、今やった参考書を復習すること。つまらない復習を何とか面白くしたくて、「復習」を「復讐」に変えて、間違った答えをしてしまったときの悔しさをあえてノートに綴る「暗記復讐帳ゲーム」を考え出したりしたんです。

鈴木 「楽しい」だけじゃなく「悔しい」という感情も、記憶に残りやすいですからね。続けていくためには、プラスでもマイナスでもいいから、そういう刺激が必要だと思います。

西岡 間違えたことを書き出すことで、「自分はここを覚えてない」というのを把握できるという効果もありますよね。そういう意味では、できなかった問題だけの問題集を作ってみたりするのもいいかもしれないですね。弱点がわかれば、そこを補強することができますから。